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新時代の内燃機関の実現には、トレードオフの関係にある4つの技術課題の解決が欠かせない。“学”とAICEが中心になって2020年4月に立ち上げるコンソーシアムを含め、50%超の熱効率とゼロエミッションを両立するエンジンに向けた取り組みを解説する。(編集部)

 「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリングサービス、電動化)の融合により、内燃機関の高効率化を加速し、電気自動車(EV)並みのゼロエミッションを目指す」─。AICEの掲げる目標だ。100年に一度の技術革新を達成するための方策は何か。具体的な技術課題の例を紹介しながら探っていこう。

 熱効率50%超と排ガスゼロに向けた技術課題は多い(図1)。熱効率の向上は、理論熱効率の向上と廃熱回収が鍵となる。理論熱効率を向上させる技術アイテムとしては、(1)リーン燃焼、(2)高圧縮比化、(3)冷却損失の低減、(4)摩擦損失の低減の4つがある。

図1 熱効率50%超と排ガスゼロに向けた技術課題
図1 熱効率50%超と排ガスゼロに向けた技術課題
熱効率向上と廃熱回収が重要になるが、技術課題の解決する方策の中にはトレードオフの関係になるものも少なくない。(出所:AICE)
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 例えば、理論空燃比よりも薄い混合気で燃焼させる希薄燃焼(リーン燃焼)は、熱効率50%超には不可欠な技術である。だが、排気温度を低下させるため、廃熱回収には不利な要素となる。排ガスの清浄化に対しては、従来の三元触媒が使用できないため、リーン雰囲気での高効率触媒の研究が必要となる。

 高圧縮比化も高効率化には重要な技術要素であるが、シリンダー内部の圧力(筒内圧力)を高めるため、ガス温度が上昇し、かつガス側の熱伝達率が増大するため冷却損失を増大させてしまう。エンジンの部品間に生じる摩擦損失(フリクション)も増大する。

 このように、ゼロエミッション実現に向けた理論熱効率の向上や廃熱回収、排ガス清浄化への方策は、それぞれがトレードオフ関係を有している。また、これらの技術課題の解決策を組み合わせることで、新たな課題を生じさせてしまうことも少なくない。

 高圧縮比化と冷却損失低減、廃熱回収の実現策を組み合わせた場合を例に考えてみよう。高圧縮比化によるガス温度の上昇は、リーン燃焼とクールドEGR(排ガス再循環)を用いることである程度低減できるが、廃熱回収には不利な排ガス温度の低下を招く。

 排ガス温度の高温化と冷却損失低減を同時に満足する方策として、遮熱化がある。燃焼室の壁温を高温にして、燃焼室内のガスとの温度差を小さくすることで冷却損失を低減するものだ。

 しかし、遮熱化も万能ではない。高圧縮比化の方策と組み合わせると、ノッキングの対策として新技術が必要になる。現在、このノッキング対策の新技術として、筒内への水噴射などの研究が盛んに行われているが、水噴射を適用した場合、排気温度を大幅に低下させ、かつ水の供給をどうするかといった新たな課題を生んでいる。

 複雑に絡み合う技術課題を解決するには、従来の技術を組み合わせるという発想を捨てる必要がある。本質的な要因を物理的現象として捉え、全体を見渡したサイエンス的なアプローチによって新たな解決策に挑戦することが重要だ。