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前編ではZメカニズム技研が開発した「XY分離クランク機構」を解説した。今回は同社が試作したエンジンを紹介する。XY分離クランクと鏡像配置を組み合わせることで、2気筒でありながら振動を小さくできる。電動車両のレンジエクステンダー(発電用エンジン)への適用を目指す。

※『日経Automotive』2018年3月号に掲載された記事を再構成・転載しました。記事中の肩書きや情報は掲載当時のものです。

 燃費の良いエンジンを実現する方法の一つとして、連接棒(コンロッド)をなくす検討が始まっている。燃費改善という観点では不利になるコンロッドをなくし、気筒の内径(ボア)を小さくしようという発想だ。

 独自の「XY分離クランク機構注1)」を採用してコンロッドのないエンジンを開発するのがZメカニズム技研である。同機構を応用した鏡像配置エンジンとしてU型2気筒、水平対向2気筒の2機種を試作した(図1、2)。試作はしていないが、V型も鏡像配置にできる(図3)。

注1)XY分離クランク機構は、ピストンの往復運動を往復方向(X)と、それと直交する方向(Y)に分離して回転運動に変える。ピストンはコンロッドを押す代わりに直立したピストンロッドを下に押す。

図1 試作した直列2気筒エンジン
図1 試作した直列2気筒エンジン
市販のディーゼルエンジンを改良した。
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図2 試作した水平対向2気筒エンジン
図2 試作した水平対向2気筒エンジン
2本のクランク軸を平行に並べて互いに逆回転させる鏡像配置エンジンである。
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図3 鏡像配置のエンジン
図3 鏡像配置のエンジン
水平対向のほか、U型やV型も可能である。
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 鏡像配置というのはクランク軸を2本平行に並べ、互いに逆回転させるエンジンだ。こうすると振動を打ち消し合うことは分かっていた。それでも自動車に実用例はなかった。2本のクランク軸を1本の出力軸にまとめる必要があるので使いにくいエンジンになる。

 まず大きな歯車が必要だ。エンジンからトーショナルダンパーを介さずに歯車を回すと歯打ち音が心配になる。かといってトーショナルダンパーを入れると、ピストン同士の位相関係がずれて鏡像でなくなる。出力軸が中心から外れた位置にあるため従来のエンジンの配置と合わない。自動車用というより、出力軸2本のまま合流させずに使う船舶用などに向いたエンジンだった。

レンジエクステンダーに活路

 その状況が、レンジエクステンダーの登場で一変した。電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)などの航続距離を延ばす目的で搭載する発電用エンジンだ。鏡像配置エンジンの場合、それぞれのクランク軸に発電機を取り付ければよい。両クランクをつなぐ歯車は必要だが、動力を伝えるためのものでなく、回転の位相を合わせるだけのものなので、薄い歯車で済む。歯打ち音の心配も少ない。

 また、2気筒であるためにトルク変動があったとしても、それは同じマウントに載った発電機に伝わるだけで、タイヤに伝わるわけではないので車体の振動につながりにくい。

 同社が力を入れているのは鏡像の2気筒エンジン。2気筒エンジンは4輪車用のエンジンの主流として認められていない。振動の問題があるためだ。鏡像エンジンにすることによってこの問題を解決できる。

 通常のクランク機構で2気筒エンジンを鏡像配置にした前例として、オーストリアObrist Powertrain社が開発中のハイブリッドシステム「HyperHybrid」のレンジエクステンダー用エンジンがある(図4)。2015年の「人とくるまのテクノロジー展」に出品したときは発電機が1台だったが、その後の進化版では2台に分けたようだ。

図4 オーストリアObrist Powertrain社が開発中の「HyperHybrid」のエンジン
図4 オーストリアObrist Powertrain社が開発中の「HyperHybrid」のエンジン
左右に直立した気筒が並ぶU型鏡像配置である。
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 鏡像配置によって1次振動を打ち消した。直列やU型の2気筒エンジンで爆発間隔を等間隔の360度にした場合、上下の1次振動をウエイト(重り)で全部打ち消すと、それと直交する方向に振動が出てしまうので、中途半端にしか打ち消せない。これに対して2軸を逆回転させると、ピストン軸方向の1次振動をウエイトで全部打ち消しても、発生した振動が2軸で打ち消し合うので問題が起きない。

 しかし2個のピストンが並んで上下するため2次振動は消せない。前号で触れたように、XY分離クランクを応用すると2次振動をなくせる。XY分離クランクと鏡像配置を組み合わせると1次振動も2次振動もないエンジンになる。通常のエンジンでは1次も2次もないというのは直列6気筒に相当するバランスだ。これが2気筒で実現する。

長さ、重さとも1/4に

 排気量4000ccのエンジンを想定する(図5)。直列6気筒にするにはボアが91mm、ストロークが102mmという組み合わせが考えられる。長さは596mm、質量は400kgにもなる。2気筒で済むならボア、ストロークとも137mm注2)。長さは137mm、質量は100kgになる。長さ、重さとも1/4である。極めて小さく軽いエンジンが実現する。

注2)この2気筒エンジンはSB比が1と小さい。前号ではSB比を大きくすることに力を入れたので矛盾に見えるかもしれないが、目的によって生かし方が違うということだ。

図5 4000ccのエンジンの想定
図5 4000ccのエンジンの想定
これまでの直列6気筒と同じ振動特性を2気筒で実現する。長さ、重さともに1/4になる。
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 コンビネーターが直線運動していることを生かし、下の空間にピストン式のスーパーチャージャーを取り付けることもできる(図6)。コンビネーターから下にロッドを伸ばし、圧縮ピストンを駆動する。

図6 コンビネーターから上がエンジン、下がピストン式のスーパーチャージャー
図6 コンビネーターから上がエンジン、下がピストン式のスーパーチャージャー
コンビネーターが直線運動しているために可能になる。
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 Zメカニズム技研の設計では、潤滑油(エンジンオイル)の回収には慎重な方針を採っている。クランクケースと圧縮室の間に隔壁を2枚設けた。ロッドが隔壁を貫通する場所にロッドシールをそれぞれ取り付ける。これで1段目のロッドシールから潤滑油が漏れたとしても、副室で回収する。クランクケースと副室にはそれぞれ潤滑油の排出口を設け、別付けのオイルタンクに集めた後にポンプで循環させる。1段目のロッドシールは圧力差がないので漏れないことに徹し、2段目のロッドシールは圧力差に対応できるシールにした。

 こうすると、圧縮ピストンの上と隔壁の下に挟まれた空間も圧縮に利用できる。複動式の蒸気機関のようなものである。ロッドの断面積があるので2倍までは行かないが、強力な過給ができる。

 クランク軸から下が長くなる心配があるが、前述した潤滑油の回収方法でオイルパンがなくなるので、大幅に大きくなることはない。クランク軸が高くなった場合、現在の変速機と組み合わせる場合は使いにくいがレンジエクステンダーでは逆。通常のエンジンではクランク軸がエンジンの中央より低いところにあるために下側が制約となり、発電機の直径を大きくできなかった。クランク軸が高い方が発電機を大きくし、その結果薄くできる。