全3420文字
PR
4/1朝まで
どなたでも有料記事が読み放題「無料開放デー」開催中!

大きなトルク、良い燃費、静かな走り――。トラック用と思われていたディーゼルエンジンは、乗用車用でもガソリンエンジンより高級なエンジンという評価を確立した。変化の立役者は噴射弁(インジェクター)だ。デンソーの噴射弁で最新の第4世代品「G4S」について、そのメカニズムを解説する。

※『日経Automotive』2018年4月号に掲載された記事を再構成・転載しました。記事中の肩書きや情報は掲載当時のものです。

 ディーゼルエンジンの歴史は噴射圧が上がっていく歴史だ。現在のコモンレール式注1)になる前、噴射圧はせいぜい50M~60MPaだった。コモンレールの第1世代では、噴射圧はトラックで120MPa、乗用車で145MPaに上がった(図1)。その後、世代が進むとともに噴射圧は高くなり、現行の第4世代では250MPaに達した。

注1)現在、ディーゼルエンジンが高い評価を得ている最大の原因はコモンレールを採用したことだ。ポンプは常に回っていて燃料を高圧にし、それを細長い蓄圧室(コモンレール)に蓄えておく。噴射弁は開いたり閉じたりするだけで、それ自体が圧力を上げることはない。
図1 デンソーの噴射弁の進化
図1 デンソーの噴射弁の進化
世代とともに噴射圧が上がってきた。図中の「EU2」「EU3」などは欧州の環境規制を示す。
[画像のクリックで拡大表示]

 噴射圧が高いと、燃焼のすべてが良くなる。同じ量の燃料を噴くのに、噴口径を小さくできる。噴口径が小さければ燃料液滴の粒が細かく、空気との接触面積が大きくなる。大きな液滴の中の方にある燃料は燃焼時に酸素不足になり、黒煙が発生する元となる。また、噴射圧が高ければ噴射は短時間で済む。数回に分けて噴くなど、燃焼を自由に制御できる。

燃料そのものの圧力で弁を動かす

 基本的な作動原理をまず模式的に説明し、後から具体的な構造を説明する。主役はノズルニードル(以下ニードル)である(図2)。ニードルが下の弁座に当たっていれば噴射口はふさがれ、燃料は噴射しない。ニードルを引き上げれば噴射する。

図2 第3世代噴射弁の作動原理
図2 第3世代噴射弁の作動原理
弁は一つである。
[画像のクリックで拡大表示]

 ガソリンエンジン用の噴射弁は、ニードルを電磁石が直接引き上げる「ソレノイド式」である。ガソリンエンジンの噴射圧はポート噴射の場合に0.2M~0.3MPa、直噴でも10M~30MPa。これに対してディーゼルエンジンの噴射圧は現行の第4世代で250MPa。ポート噴射の1000倍である。ガソリンエンジンのやり方では巨大な電磁石が必要になる注2)

注2)アクチュエーターとしてピエゾ素子を使うという選択肢もある。しかしコストが安い、寿命が長い、世界中どこでも生産できる、などの理由から電磁石でできるものは電磁石で済ませたい。それで無理な場合にだけピエゾを使う。

 このため、ディーゼルエンジン用のソレノイド式噴射弁では燃料そのものの圧力を使う。電磁石で引っ張るのはニードルではなく、その上にある制御弁である。制御弁で燃料の圧力を制御し、その圧力でニードルを引き上げる。

 デンソーの前世代(第3世代)の噴射弁では、ニードルの上にニードルよりも径の大きなコマンドピストンを取り付ける。ポンプで高圧にした燃料をニードルの下とコマンドピストンの上に供給する。燃料を噴射しないとき、ニードルは圧力のバランスとばねの力で弁座に押し付けられる。燃料を噴射するとき、弁を開いてコマンドピストンの上の空間を低圧側につなぎ、圧力を下げる。上下の圧力バランスがくずれ、ニードルが上がって燃料を噴射する。弁は1個だ。

 第3世代ではコマンドピストンとニードルの間の空間を低圧側とつないでいる。そうしないとコマンドピストンだけが上昇してしまう。このため、コマンドピストン上、ニードル下の両方にある高圧側から低圧側に漏れる燃料がある。これを「静リーク」と呼ぶ。

 コマンドピストンの上の空間と低圧側をつなぐため、燃料の一部は高圧側から低圧側に直接流れて噴射されず、ポンプに戻ることになる。これを「動リーク(スイッチングリーク)」と呼ぶ。