米テスラ(Tesla)の高級セダン「モデルS」のステアリングコラムに光っていたのは、「MERCEDES-BENZ」の文字だった(図1、2)。ドイツ・ダイムラー(Daimler)向けの部品を流用していることが分解で分かった。
モデルSの分解を続けていくと、Daimler以外の自動車メーカー向けの部品も続々と出てきた。自動車メーカーの垣根を越えて部品を共通化することは一般的になりつつあるが、他の自動車メーカーのロゴを付けたままの部品を流用するのは珍しい。
Teslaの専用部品で固めた「モデル3」とは大違いだ。特集「テスラの最新EV『モデル3』徹底分解」でこれまでに報じてきたように、モデル3は独自技術をふんだんに盛り込んだ。
例えば、自動運転機能などでクルマの“頭脳”となる統合ECU(電子制御ユニット)は内蔵する処理半導体から自社開発。さらに、その統合ECUを中核に据えた先駆的な車載電子プラットフォーム(基盤)をトヨタ自動車やドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen)など旧来の自動車メーカーよりも6年以上早く実用化した。インバーターはパワー半導体にSiC(炭化ケイ素)を多用し、内蔵基板を米国の国土の形状に似せるという遊び心も見せた。
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「羨ましいほど自由」――。分解に協力した自動車メーカーの技術者の口からこんな言葉が漏れるほど、モデル3で制約のない開発で理想を追求できたTesla。だが、同社は創業当初から自由を得ていたわけではない。
2008年に発売した最初のTesla車「ロードスター」は、英ロータス・カーズ(Lotus Cars)のスポーツカー「エリーゼ」をベースに開発した。エリーゼの車体を流用し、リチウムイオン電池やモーターなどを組み込んだ。
ロードスターに次ぐ電気自動車(EV)としてTeslaが開発したのがモデルSで、シャシーから自社で設計した初めての車両である。「海の物とも山の物ともつかないEVベンチャーに部品を供給するのは、メリットよりもリスクのほうが大きい」(ある日系部品メーカーの幹部)と判断した部品メーカーが少なくなかったため、Teslaは部品の調達に苦労したようだ。