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本記事は、日経エレクトロニクス2008年2月25日号の特集「五感センサ 機器をヒトに近づける」をWeb記事用に分割して再掲載したものです。社名や肩書きは執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

触覚、嗅覚、味覚は五感センサの中でこれまで開発が遅れていたが、最近になって新しいセンサ素子の開発例が急速に増えている。開発指針は生体の感覚器官に、いかに近づくか。センサ素子だけでなく、配線や情報処理も生体が手本になっている。人間の感覚を再現できれば、それだけ「人間らしい」機器の開発に近づく。一部では既に、人間の感覚をはるかに超えるセンサも登場している。

味覚 舌が味を感じる機構を模倣したバイオ・センサ

 奮発して例のレストラン・ガイドに載っていた星付きの店に行ったんだが、ちょっと自分の口には合わなかった─。多くの人が経験したことがあるであろうこんな失望感は、近い将来、感じなくても済むようになるかもしれない。美食家の口に合った結果のおいしさではなく、料理の味の質を客観評価できるようになるからだ。それを可能にするのは味覚センサ。自分の嗜好に合った味をデータの形で持っておけば、それに近い味を出してくれるレストランを検索できる。

基本味それぞれを数値化

 味を数値化して評価できる味覚センサが注目を集めている(図17注8)。既に、食品の開発や品質管理、医薬品の開発などに利用されている。甘味を出すショ糖やうま味を出すグルタミン酸など味の原因物質を検知するのではなく、人間が感じる味そのものを数値で表すことができる。舌が味を感じる機構を模倣したバイオ・センサを開発することによって実現した。

図17 人間が感じる基本味を直接検知できるセンサ
図17 人間が感じる基本味を直接検知できるセンサ
生物の味覚の機構を模倣したバイオ・センサを用いた味覚センサが実用化された。センサに用いる脂質と高分子膜の配合を工夫することにより、従来のように統計的な手法を用いることなく基本味を直接検知できるようになった。センサの大きさも、携帯できるほど小型化した。これまで味は、イオン・センサやphセンサ、液体濃度センサなど複数種類のセンサを通じて得た化学量を通じて間接的にしか知ることができなかった。
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注8) 人間が味として感じているものは、実際には複雑な要素で構成されている。基本味以外にも、口の中の粘膜を刺激することによる痛覚に相当する辛味や舌の滑り具合に対応する渋味なども味として感じている。また,かみ心地、舌触り、のど越しなどの触覚に分類される感覚や、香りなど嗅覚の要素も絡んでくる。