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認知度の向上でビジネスチャンス拡大

 こうしたユーザー側の変化は、異種材料接合に対する認知度が高まったことが大きい。異種材料接合は10年ほど前に日本で立ち上がった。ところが、当初は異なる材料同士がくっつく面白さに技術者が興味を引いたものの、実用化できるか否かについては不透明だった。異種材料接合のパイオニアの1社である大成プラス(本社東京)は、新しい接合技術の良さをユーザーに知らしめるために、Al合金と樹脂を接合して作ったサンプルをハンマーでたたくことで、接合の強さをユーザーに実感してもらう実演まで各所で行った。

 その後、接合原理として発見された「アンカー効果」の知識が技術者の間に徐々に広まっていく。接合界面を微細に観察したところ、金属の表面に生じた微細な凹凸に、射出成形した樹脂が入り込んで「いかり」のように食い込むことで抜けなくなる現象が見つかった。アンカー効果と命名されたこの物理的な結合が、電子顕微鏡写真による「見える化」と、いかりのように固定されるという分かりやすさで、広く知られるようになっていった。

 結果、ソニーのプロジェクターを皮切りに、ノートパソコンや携帯電話などのデジタル機器を中心として異種材料接合の実用化が進んでいった(図3)。金属製のきょう体の内部に、樹脂製のリブやボスを設ける使い方が多い。その後は順調に量産例を増やし、現在はこの分野では汎用的とも言える接合技術となっている。

図3 デジタル機器での異種材料接合の採用例
図3 デジタル機器での異種材料接合の採用例
金属と樹脂をアンカー効果でくっつけた大成プラスの実用化例。きょう体に樹脂部品(リブやボス)をくっつける用途で多く使用された。(写真:日経 xTECH)
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潜在的なニーズの広がり

 実用化がデジタル機器を中心に増えていったことで、異種材料接合はさらに認知度を高め、ユーザーの期待を集めてビジネスチャンスが膨らんでいった。このビジネスチャンスを捉えるべく、異種材料接合を開発するメーカーはユーザーのニーズをつかみ、着々と実験データやノウハウを積み上げている。

 例えば、ダイセル・エボニックは、ドイツをはじめ海外の自動車メーカーとは異なる日本の自動車メーカーが自動車部品に求める条件を詳細に把握し、その情報を基に開発を進めている()。異種材料接合の開発メーカー側のこうした努力があり、複数の日本の自動車メーカーや部品メーカーが、実用化をにらんで異種材料接合を使った自動車部品の開発に挑んでいるようだ。部品や形状が具体的に決まって試作段階にある自動車部品である。

表 自動車部品が異種材料接合技術に求める条件の例
(出所:ダイセル・エボニック)
表 自動車部品が異種材料接合技術に求める条件の例
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 アンカー効果による異種材料接合の課題も見えてきた。線膨張係数が異なる金属と樹脂を直接接合するため、温度変化が大きい環境で使った場合に、熱膨張の差で接合部に亀裂や割れが生じたり、剥がれたりするケースがあることが分かったのだ。加えて、接合部に応力集中が発生する可能性も指摘されている。これらの課題は、比較的接合部が小さく接合強度もそれなりで済むデジタル機器ではそれほど問題にならない。接合部を適した設計に変えて対応することも比較的簡単だ。だが、接合部が大きく、かつ高い接合強度が求められる自動車や建設機械、ロボット、飛行機などの部品、特に構造部材に使う場合は問題となる可能性がある。

 これらの課題を改善するために、線膨張係数の差を吸収して応力を緩和する弾性層を使った異種材料接合技術も最近は登場している。

 接合原理の解明も進んでいる。これは分析技術の進化で接合界面を詳細に分析できるようになったことが大きい。接合原理の解明はユーザーが設計要件として強く求めるものだ。強度や耐久性の技術的な根拠になるだけではなく、不具合が起きた際にその原因や解決策を見いだす際に役に立つ。

 このように、実験データやノウハウの蓄積、課題の抽出、接合原理の解明が進んだことで、異種材料接合に対するユーザーの期待は一層膨らみ、ビジネスチャンスはさらに大きくなっている(図4)。

図4 異種材料接合の進化と拡大するビジネスチャンス
図4 異種材料接合の進化と拡大するビジネスチャンス
金属と樹脂の接合原理であるアンカー効果が立証された後、デジタル機器から実用化がスタートした。こうして認知度を高める一方、データやノウハウの蓄積、課題の抽出、接合原理の解明などが進むことでさらにビジネスチャンスが拡大。それが新規参入企業を呼び込み、現在、潜在的なニーズを取り込もうと新技術が続々登場している。(作成:日経 xTECH)
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