(前編)
フレキシビリティー
生産性を高める工夫随所に
特徴はフレキシビリティー─。「柔軟性」をキーワードに開発した欧州メーカーの工作機械がEMO2019の来場者の耳目を集めていた。左右にそれぞれ主軸の交換装置を備えたMCや、多彩な砥石を装着できる複合研削盤の砥石台、パラレルリンク機構の主軸など、部品加工の生産性を高める独自の工夫が随所に見られた。
主軸ヘッドを切り替える門型MC
オランダ・ユニサイン(Unisign)が開発したのは、ガントリータイプの門型MC「UNIPORT 6000-HV」だ(図15)。主軸を備えた本体がテーブルに対して前後(X軸)方向に動く。オプションによりX軸方向の移動距離は4000~2万8000mm(4~28m)もあるため、航空機や産業用機械、エネルギー関連システム、トラック、鉄道車両といった大物部品の加工に適している。主軸はクロスレールによって横(Y軸)方向に同じく2500~6000mm、ラムによって垂直(Z軸)方向に同1500~1800mm移動できる。
最大の特徴は、主軸ヘッドを自在に交換できる点だ。本体左右のコラム内部に主軸ヘッド交換装置を内蔵しており、あらかじめ用意した主軸ヘッドから加工に合わせて必要なものに自動で交換できる(図16)。使用中の主軸ヘッドを切り離して回収・収納した後、新しい主軸ヘッドを本体にセットする仕組みだ。
同社ブースでは、垂直タイプ1種類、水平タイプ2種類の主軸ヘッドを展示していた。水平タイプの主軸ヘッドを装着した場合は、本体側の3軸に加えてZ軸周りの旋回軸であるC軸が増えるため、4軸MCとして機能する。
旋回軸を2つ備える主軸ヘッド(ユニバーサルヘッド)を搭載すれば5軸MCとしての運用が可能だ。214本の工具を収納できるツールマガジンも備えており、自動工具交換装置(ATC)によって工具を自動交換できる。主軸ヘッドと工具の組み合わせによって、より多種多様な切削に対応できる*2。
4種類の研削を1台でこなす
さまざまな研削を1台でこなす柔軟性を備えた複合円筒研削盤「S31」を開発したのが、スイス・フリッツ スチューダー(Fritz Studer)だ(図17)。加工できるワークは大きさが直径350×長さ1600mm、質量が150kgのものまで。自動車や医療機器、発電機、工作機械、時計といった幅広い部品の研削に使える。
日本メーカーの研削盤は専門化・細分化が進んでおり、特定の部品の研削を効率よくこなすことに長(た)けている。半面、幅広い研削を苦手とし、複数の種類の研削を要する場合には複数台の研削盤を用意しなければならない傾向があるという。
これに対し、スチューダーの新しい研削盤は「複合」の名の通り、1台で複数の種類の研削をこなせるという特徴を持つ。研削の種類ごとに研削盤をそろえる必要がないため、複数の工程を1つに集約できる。加えて、ワークのクランプ(固定)作業が1度で済むため、精度向上につながる上に、段取り時間が短くなることから、多品種少量製品の加工にも適している。
これを可能にするのが、旋回式砥石台だ(図18)。上から見ると、旋回式砥石台の左右に異なる種類の回転砥石を装着できることが分かる。左右それぞれに2つずつ、最大で4種類の回転砥石の装着が可能だ。展示した研削盤は左側に2つ、右側に1つの合計3つの回転砥石を装着していた。
研削時には、砥石台を旋回させて使用する回転砥石をワークに向ける。旋回角度を変えることで回転砥石の“割り出し"を行い、異なる種類の研削を実施する仕組みだ(図19)。
回転砥石を回す主軸とモーターの駆動には、ベルトや減速機を使わずに直接つないで回転させるダイレクト・ドライブ(DD)方式を採用。これにより、砥石台の小型化と高精度化を実現している。
ワークの外径を研削できる他、穴の内径を研削する内面研削も可能。加えて、専用のソフトウエアを使えば、断面が多角形などの非真円形状の外形研削にも対応できる。プローブによる測定も自動化を図り、段取り時間の短縮につなげている。