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 うまく使えばユーザーの役に立つが、使い方を間違えればユーザーに深刻な権利侵害をもたらす。そんなCookieの活用とユーザーの保護をどう両立するか。Web閲覧履歴を扱う各社は試行錯誤を続けている。

 デジタルマーケティング向けデータ分析基盤を提供するトレジャーデータは2019年11月13日、国内でリスク管理などを手掛けるGRCSとの協業を発表した。

 GRCSはCookieなどの利用に関わるユーザーの同意/不同意を記録する同意管理ツールを開発する米ワントラスト(OneTrust)のコンサルティングパートナーである。同ツールを使うことで、欧州のGDPR(一般データ保護規則)に準拠した個人データの取り扱いを実現できるという。

 この協業の意義について、トレジャーデータの山森康平ビジネスデベロップメントディレクターは「国内法の問題とは別に、Cookieの活用が一般消費者から見て『気持ち悪い』と思われるのは避けたい。我々のデータ基盤を使う顧客企業に対し、消費者に不安を与えないためのオプション(選択肢)を用意した」と語る。

 ただし同ツールで同意管理ができるのは、企業が自社サイトで発行した「ファーストパーティーCookie」にとどまる。国内でパブリックDMP企業がWeb閲覧履歴の収集に使うサードパーティーCookieについて、現時点で同意の有無を管理できる業界共通の仕組みが無いためだ。同社の堀内健后マーケティングディレクターは「デジタルマーケティングの領域は、業界共通の課題に対応する取り組みが乏しかった。今後はそうした活動が必要になるかもしれない」と語る。

 インティメート・マージャーは現在、同社のパブリックDMPについて法律事務所と共同で、適正にデータを扱うためのデータ連携ガイドラインを作成しているという。

 簗島社長は「Cookieから個人データベースへのデータ移行は危ない。その場合はユーザーに対して利用目的を明らかにした上で許諾をとるよう、顧客企業に求めている」と語る。

 Cookieの適正な扱いについて各社が苦悩する一方、「サードパーティーデータ(Web閲覧履歴など外部から収集したデータ)の時代は終わった」と主張する企業も現れ始めた。

 例えば欧州SAPは、デジタルマーケティング支援ツールを企業に提供するに当たり、サードパーティーデータからは距離を置き、ユーザー企業が自社のサイトやスマホアプリから取得する「ファーストパーティーデータ」の分析を重視しているという。

 「ここ数年、サードパーティーデータを使った広告やマーケティングが流行したが、期待したほどの成果が出なかった」と、SAPジャパンの阿部匠ソリューションエンジニアリング部マネージャーは主張する。「現在はあらゆる企業が顧客との接点、つまりデジタルタッチポイントを競う時代だ。自らが顧客から取得するファーストパーティーデータの価値が相対的に高まっている」(阿部マネージャー)。

個人情報保護法が2020年改正、Cookie規制は間に合うか

 Cookieを介して特定個人にひも付くWeb閲覧履歴の扱いについて、個人情報保護委員会は新たな規律を検討する方針を明らかにしている。だが複数の識者は「2020年に予定される個人情報保護法の改正には間に合わないのではないか」と指摘する。現在のスケジュールでは年内に改正法の草案をまとめる必要があり、議論が成熟していない中で新たな規制を法案に含めるのは困難との見方だ。

 新潟大学の鈴木正朝教授は「国内におけるデジタルマーケティングの課題は、欧州のGDPRが言うところの『データコントローラ(データ管理者)』が誰かが明確でない点にある」と指摘する。

 欧州はCookieを含む個人データの取り扱いについて、同意取得などの義務をデータコントローラに課している。一方で日本の法律は、Cookieを介した個人データの流通について誰がどのような義務を負っているか、明確とは言えない。

 例えばリクルートキャリアがCookieを介して学生の内定辞退率を契約企業に提供していたスキームについて、利用目的の提示と同意取得の義務を負うのは学生を会員に持つリクルートキャリアなのか、DMP事業者としてCookieにひも付くWeb閲覧履歴を収集・分析したリクルートコミュニケーションズか、辞退率と学生個人をCookieでひも付けた契約企業なのか。現行の個人情報保護法は明確な答えを示していない。

 ユーザーに提示した利用目的が「ダイレクトメールの送信先をターゲティングするため」と「内定辞退率を提供するため」では、ユーザーにとって許諾の可否は大きく異なるだろう。誰がデータコントローラかを明らかにし、利用目的を明示することで、個人の権利を侵害するようなデータ活用を防げる可能性がある。

 企業もユーザーもウィンウィンとなるようなデジタルマーケティングを実現するには、どのような取り組みが必要か。法改正の進展を待たず、業界を挙げて議論すべきだろう。