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 些細(ささい)なミスが大事を引き起こすことは多々ある。システムを利用した業務においてもそれは発生する。先日、筆者が関わっている小規模なECサイトの運用において、それを改めて感じた事例を紹介しよう。

雪室栗をネット販売

 筆者は「雪室栗」をSTORESというネットショップサービスを利用して販売する事業に参画している。雪室栗とは無農薬栽培の栗を新潟県の豪雪地帯で古くから利用されている雪室に貯蔵し、熟成させたものだ。雪室とは冬に降った雪を建屋内に大量に貯蔵して1年中冷やす、いわば「天然の冷蔵庫」である。食品の貯蔵だけでなく、データセンターの冷却などにも利用されている。電気を使わないエコな冷熱エネルギーとして近年改めて注目を集めている。

 栗を雪室で貯蔵することのメリットは大きく2つある。1つは栗がとても甘くなることだ。これは低温下で栗に含まれるでんぷんが糖化することで起きる。普通の生栗の糖度は10度前後だが、雪室で2~3カ月貯蔵すると20~26度くらいまで上昇するのだ。もう1つのメリットは栗を良好な状態で保存できることだ。生栗は常温ではすぐに乾燥してスカスカになったり、虫が出たりして傷んでしまうが、雪室に貯蔵すると栗を生きたまま保存できるのである。

 9月中旬に収穫した栗を12月中旬以降に出荷することで、高糖度と希少性の付加価値をつけることができる。しかし、雪室栗は無農薬栽培の大粒の栗を入手し、さらに雪室で貯蔵管理するという手間が掛かるため、大量販売がなかなか難しい商品でもある。そのためまずはPoC(概念実証)として汎用的なネットショップサービスで売ってみようという取り組みをしている。

 栗の生産者は岐阜県恵那市、高知県四万十町、愛媛県内子町などに、雪室は新潟県小千谷市に、そしてネットショップの運営は東京、大阪、山梨に分散している。栗の生産者は専業だが、それ以外のメンバーは他に本業があり、業後や週末に活動する。この各地のメンバーがネットショップの機能やSNS、オンライン会議、さらには運送会社のWebサービスを使って直接対面することなく販売までの仕組みが回るようになっていて、いわば小さな農産物販売DXと言える取り組みなのだ。DXは多額の投資をして最新のITを利用することではない。既存の安価なサービスを組み合わせて、事業の仕組みを変えることもDXのあり方の1つであろう。

 仕組みがうまく回っていると、かえってうっかりミスが出る。雪室栗の出荷は週末に集中して行う。昨年末のことだ。12月17日(土)の出荷は13日(火)深夜までの受け付けとし、14日以降は翌週の出荷と決めていた。しかし、14日以降注文は翌週出荷になるアナウンスをうっかり忘れてしまい、それに気がつく前に2件ほど注文が入ってしまった。注文した顧客はサイトの出荷情報を見て当然17日に出荷されるものと思うはずだ。