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 先日、歯科医院に行ったときのことだ。治療後に次の予約患者まで少し時間があったのか、歯科医が話しかけてきた。「マイナンバーカードの健康保険証のことなんだけど、やはり専用の読み取り装置を購入しないと使えないんですよね」と質問された。歯科医とは旧知の間柄で筆者がITの仕事をしていることを知っているのだ。

 マイナンバーカードを健康保険証として利用するにはオンライン資格確認が必要となる。オンライン資格確認とはマイナンバーカードのICチップまたは健康保険証の記号番号などによりオンラインで資格情報の確認ができることをいう。

 このオンライン資格確認のために相当のシステム導入コストを要するので迷っているというのが歯科医の相談内容であった。調べてみると、導入にかかる費用は歯科診療所ではカードリーダー1台は無償提供されるがそれ以外の費用として、(1)資格確認端末の購入と導入、(2)レセプトコンピューターなどアプリケーションを組み込むパッケージソフトの購入と導入、(3)オンライン請求回線の導入、既存のオンライン請求回線の増強、(4)レセプトコンピューターの既存システムの改修など、周辺機器の整備費が必要となる。

 これらの費用に対しては導入段階では補助金が出るが、導入後のランニングコストなどはすべて歯科診療所負担となる。冒頭の歯科医の質問は資格確認認証端末のことで、数社のメーカーから製品が出ているが、どれも筐体が大きいのである。歯科医いわく「ウチの受付にあんな大きな端末は置くスペースは無いよ。大きな病院ならともかく、一般の歯科診療所はどこも同じではないかな」「いまどき専用の端末が必要なの、確定申告に使うようなカードリーダーではダメなの」といった疑問であった。

 こちらの歯科医はITに詳しいわけではない。いわばITの素人である。しかし、素人の素朴な疑問こそ問題の本質を突いてくる。だから多くの開業医、歯科医が導入に二の足を踏んでいて、普及しないのだ。

 本気でマイナンバーカードを普及させ、日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)のベースにしたいと考えるのであれば、専用端末というやり方は最悪であろう。まさかとは思うが健康保険証用の端末、運転免許所要の端末、e-Tax用の端末、自治体サービス用の端末・・・なんてことにならないだろうかと心配してしまう。

 さらに、つい最近までマイナンバーカードを健康保険証として使うと、患者の金銭的負担が増えるという信じられないような悪手も打たれていた。医療機関にオンライン資格確認設備を導入してもらうために医療機関の報酬を手厚くするのが目的だったそうだが、いかにも役人的な無責任は発想だ。民間企業なら決してこのような施策は打たない。さすがにこれは悪手過ぎるということで、見直しが図られているが、さまざまな利権や思惑が渦巻いているのか、なんだかガタガタしているようだ。