度重なるシステム障害に対して処分が下された。金融庁がみずほフィナンシャルグループ(FG)とみずほ銀行にシステム障害の再発防止と経営責任の明確化を求める業務改善命令を出した。業務改善命令が出されるであろうことは既定路線ではあったが、やはり実際に出されるとなるとインパクトは大きい。
FGの社長と会長、銀行の頭取がそろって2022年3月で辞任することになった。銀行で勘定系のシステム障害が発生し、それが新聞沙汰になるとシステム担当役員とシステム部門長のクビが飛ぶ、というのは昔からの不文律である。筆者も若いころに銀行担当のITエンジニアだったが、その銀行でシステム障害が起き、ある新聞の夕刊に記事が載ったら、やはり数カ月後に取締役システム部長が退任した。
メガバンクの一角であるみずほのケースは桁違いの影響の大きさと障害の繰り返しに問題があり、トップの引責はやむを得ない。トップに求められるのはバンカーとしての実力以上に、経営者としての能力と責任であるからだ。
業務改善命令の指摘は4点
2021年11月27日の日本経済新聞の報道によると、金融庁が業務改善命令で指摘した問題点は以下の4つである。
(1)リスクと専門性の軽視、(2)IT現場の実態軽視、(3)顧客影響に対する感度の欠如、営業現場の実態軽視、(4)言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない姿勢
これら4つのうち(3)(4)はITの問題ではなく経営姿勢の問題なので、当コラムでは割愛し、主に(1)(2)を考えてみたい。この2つは多くの日本企業では他社事ではないからだ。
まず(1)リスクと専門性の軽視であるが、記事によると金融庁が最も問題視したのはCIO(最高経営責任者)が人事畑出身でITに詳しくない人材であったことだ。みずほの勘定系システムであるMINORI(みのり)はとてつもなく巨大で複雑なシステムである。また、CIOは勘定系システムだけお守りすればよいわけではない。FinTechによるさまざまな金融業務やサービスの変革への取り組みの司令塔でもある。
このCIOもバンカーあるいは人事畑では優秀な人だったと思うが、いかんせん畑が違い過ぎたのではないか。みずほグループほどの大企業であれば、2011年に引き起こした大規模障害の教訓から10年かけてプロフェッショナルな人材育成を行うことはできなかったのだろうか。企業規模の大小にかかわらず、日本企業のIT幹部人材の登用・育成をみると、いわゆる2:6:2の法則が成り立っているように感じる。
2割の企業が適切なIT人材の登用を行っていて、既存システムの運用だけでなくDX(デジタルトランスフォーメーション)などの新しい取り組みにも能力を発揮している。いわば勝ち組企業だ。そして6割の企業が当たり障りのない人事を行い、平時であれば特に支障はないが、障害発生時にはほとんど役に立たず、部下やベンダーに「丸投げ」するしかない。またDX推進においてやる気はあっても何からやればよいかわからず、これまたリーダーシップをなかなか発揮できない。
残りの2割は他部門から先に人材の割り当てを行い最後に残った人をとりあえず配置するような会社だ。能力もモチベーションも低く、またIT予算も少ない。この2割はここで論じる意味もない。企業が本気でITを活用して競争力を持ち、成長しようというのであれば社長はCIOやDX担当の人事に全集中すべきであろう。上の2割に入るためにはそれが必須である。