本稿の仕上げ直前、大きなニュースが飛び込んできた。服飾品を中心とした高級百貨店チェーンのニーマン・マーカス(Neiman Marcus)が、米ニューヨークのハドソンヤード(Hudson Yards)にある商業施設から撤退するというのだ。跡地の一部はオフィスとして活用されるほか、一部は同地を開発したデベロッパーによって再び商業施設として新たなテナントを募集するという。本稿執筆時点で同社からの正式発表はないものの、米紙ニューヨーク・ポスト(New York Post)など複数紙が報じている。
同社は2020年5月初旬に連邦破産法11条を申請して人員削減や不採算施設の閉鎖を打ち出しており、その意味での驚きはない。ただ、米テキサスを本拠地とするニーマン・マーカスにとって、ブランドの集積地であるニューヨークへの進出は長年の悲願だった。ようやく2019年春に、最初の拠点となるハドソンヤードの店舗を開業したばかりだ。新型コロナウイルス感染症の影響で施設が閉鎖されていた期間を考えれば、1年足らずでの撤退となる見通しだ。
ハドソンヤードは、もともと20世紀に車両整備区(レールヤード)として活用されていたエリアであり、何度かオフィスや商業施設の建設計画が持ち上がったことがある。再開発プロジェクトが立ち上がり、本格的な整備が開始されたのは2000年代後半のことで、ニューヨーク地下鉄の7番線の延伸で新駅(34th Street-Hudson Yards)の設置と同時に周辺の開発がスタートした。
同地には高層のオフィスビルのほか、ベッセル(Vessel)と呼ばれるオブジェクトを中心とした広場を囲むように商業施設が配置されている。すでに大部分が開発済みのニューヨークのマンハッタンにおいて、最新の注目スポットとなった。この大型商業施設の目玉テナントとして入居したのがニーマン・マーカスであり、本来であれば華々しいデビューを飾るはずの同店が、再開発の完了を待つことなく去る形となったわけだ。
このニーマン・マーカスのニューヨーク撤退は、消費が経済をけん引してきた米国の変化の象徴といえるかもしれない。週末ともなればマイカーで巨大モールへと繰り出し、そこに隣接された百貨店やディスカウントストアで買い物をしつつ、家族が時間を過ごす……こんなライフスタイルに終焉(しゅうえん)が近付きつつある。
ニーマン・マーカスのニュースに前後して、米国では大手百貨店JCペニー(J.C. Penny)や衣料品チェーンJクルー(J.Crew)も連邦破産法11条を申請しているほか、メーシーズ(Macy's)やサックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)といった百貨店チェーンも不採算店の閉鎖を次々と進めている。こうしたブランドや百貨店は巨大モールに接続される商業施設の代表的なものであり、これは同時にモールの衰退も意味している。
実際、2010年ごろを境に米国におけるショッピングモールの数は、それまでの増加ペースから一転して停滞しており、昨今では相次ぐ施設閉鎖の影響で減少傾向にある。感謝祭後の11月第4金曜日、いわゆる「ブラックフライデー」から始まるホリデーシーズン商戦に、大勢の買い物客がリアル店舗のセール品に群がるという光景は、年々少しずつ勢いを失いつつある。「商品を置いておけば顧客がやってくる」という時代は終わり、いかに顧客のニーズを探し、満たしていくかが小売り事業者にとって重要な話となりつつある。