全4988文字
PR

 日本の金融市場で間もなく盛り上がると期待される分野がある。欧米や中国など世界各地で成長が続くなか、日本だけが周回遅れの状況となっていた送金サービスだ。

 2021年以降に本格化するとみられる、送金サービス領域の競争激化を予感させるような動きがあちこちで進んでいる。本連載で先日紹介した、英国発のチャレンジャーバンク「Revolut(レボリュート)」が日本での本格サービスを開始したのはその代表例といえる。

 なぜ送金サービスが盛り上がるのか。発端となるのは2020年の通常国会で資金決済法改正案が可決・成立したことだ。これまで100万円超の送金は銀行にのみ認められていた。銀行は開業時に国の免許が必要で、裏を返せば現在営業している銀行はその信頼性を国が担保しているといえる。

 一方、これまで資金移動事業者は100万円以下の送金しか認められていなかった。そのため、例えば海外では「便利で安価だ」と定評のある送金サービスが、日本の口座を出入りする資金に限っては上限100万円の制限がつくといった状態だった。

 このように送金を巡っては銀行と資金移動事業者の間に大きな隔たりがあったのだが、改正資金決済法が2021年に施行されると、免許制でなく登録制となっている資金移動事業者も100万円超の送金が可能になる。

 今回の法改正では資金移動事業者を、(1)100万円以上の送金が可能な「第一種」(2)従来の資金移動事業者の枠に収まる「第二種」(3)資金保全のために送金とは別に同額の資金を用意することで数万円程度までの少額送金のみが可能になる「第三種」の3つに分類する。銀行以外にも送金事業の門戸を開きつつ、さらに事業者の参入を容易にする枠を設けて送金を活発化させる狙いだ。

 こうした資金移動事業者への規制緩和を盛り込んだ改正法は、2021年内にも施行される。銀行からすれば競争相手が増えることになり、送金手数料収入の引き下げを余儀なくされるなど経営上のリスクにもなるといわれる。

2020年の通常国会で議論された資金決済法改正案の要点
2020年の通常国会で議論された資金決済法改正案の要点
(出所:金融庁)
[画像のクリックで拡大表示]

 今回の緩和策で特に大きな影響を受けるとみられるのが、企業間、個人間、そして海外送金の分野だ。個人間送金はこれまで各種規制の影響もあり、日本ではなかなか身近な存在にならなかった。それが改正法により、第一種~第三種の資金移動事業者に認められる。特に第三種は設立のハードルが低く、ユニークなサービスを武器に銀行以外の異分野から参入する事業者が増え、市場が活性化することが期待される。

 海外送金は日本ではそれほど身近なサービスではないが、世界では成長著しいサービス領域と位置づけられている。米Pew Research Centerが世界銀行などのデータを基にまとめた世界における送金額は、リーマン・ショックや足元のコロナ禍などの特定期間を除けばほぼ一貫して伸び続けており、20年前との比較で6倍近くになっている。

 要因は2つ考えられる。1つは好景気により人の往来が激しくなり、出稼ぎ労働者の雇用状況や収入も良かったため送金額が増えたことだ。もう1つは送金手段が多様化し、便利なサービスが多数出現したことである。

 直近はコロナ禍の影響もあり一時的にニーズが落ち込むのはやむを得ないが、規制緩和により日本でも海外送金サービスが活発化するのは確かだろう。既存の銀行はマネーロンダリング対応が徹底しているなど優位な部分もあるが、一方でこれまで銀行の海外送金は数千円から万単位で手数料がかかり、送金完了まで最低でも数日程度を要していた。規制緩和で新しいサービスの数々が登場することで資金移動が活発になり、市場全体が底上げされることが期待される。