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 先日、地域電子マネーとして流通が始まっている「ルパン三世Pay」取材のため、北海道東部にある浜中町を訪れた。道東の主要都市である釧路や根室から車で片道2時間という立地の小さな漁師町だが、地元資本のコンビニエンスストアであるセイコーマートが生活圏にあり日々の買い物には困らない。同様に、以前に沖縄の石垣島を訪れたときも24時間営業のコンビニが身近にあって滞在中の買い物には困らなかった。

 このように日本では流通網が津々浦々に整備され、早朝から深夜まで買い物が可能な場所が国土の隅々まで存在している。そうした環境からは想像しにくいかもしれないが、諸外国を見渡すとこうした環境はむしろ珍しく、「買い物は決められた場所で決められた時間に」というのが世界的な傾向かもしれない。

 先進国で充実したサービスがあるかと思いきや、買い物で比較的不自由する地域として、筆者がまず思い出すのが西欧だ。営業時間の縛りには毎回苦労させられる。

 西欧の都市にはカンファレンス取材などで1週間以上滞在することも多く、その際には短期でアパートを借りる。自炊なども珍しくない。食料品や小物の買い出しはスーパーを利用するが、営業時間が午後8時までだったり、週末は土曜日が時短営業で日曜日は休日だったりする。スペインなどの南方の国では夕方にシエスタがあり、営業時間も変則的だ。日中は会議や取材で動けない状態にあって、買い物をうまく済ませるには計画性が必要だ。

 こんな西欧での買い物事情だが、昨今の新型コロナウイルス禍とテクノロジーの進化で、人々の行動や生活様式に変化が起きつつあるようだ。

西欧訪問でいつも悩ましいスーパーでの買い物。そうした状況にも変化が生まれつつあるかもしれない
西欧訪問でいつも悩ましいスーパーでの買い物。そうした状況にも変化が生まれつつあるかもしれない
(撮影:鈴木 淳也)
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コンビニ文化のない西欧

 買い物、特にスーパーの営業時間で苦労するのは西欧特有の事情だが、中でも悩ましいのがドイツだ。同国では労働者保護の観点から「閉店法」という法案が制定されている。日曜日と祝日は小売店舗の営業が認められておらず、平日の営業時間も午前6時から午後8時までと決められている。ただし一部例外があり、空港や駅、ガソリンスタンドなどの公共性が高い施設などではその限りではない。そのため、現地の宿は利便性も考慮して駅の近くに確保している。それにより飲み物や簡単な食料をいつでも入手できるようにしておくという知恵がついたのも、長年の現地取材の成果だ。

 西欧諸国を回っていると分かるが、いわゆる「コンビニ」という業態がほぼ存在しない。北欧などではセブン-イレブンの店舗を見かける機会が多いが、西欧ではこれに該当するものは英Tesco(テスコ)やフランスのCarrefour(カルフール)といった大手スーパーチェーンが都市部で展開する「ミニスーパー」のようなものしかない。そうしたミニスーパーの多くは、立地こそ便利なところであるものの、営業時間は例えばフランスでは午後8~9時までの店舗が多い。通常のスーパーと大差ないため、日本のコンビニのような感覚では利用しにくい。

週末はひっそり静まりかえる街の中心部も、カーニバルでは出店も多く顔を出してにぎやかに。フランクフルトで2019年に撮影
週末はひっそり静まりかえる街の中心部も、カーニバルでは出店も多く顔を出してにぎやかに。フランクフルトで2019年に撮影
(撮影:鈴木 淳也)
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 よく「ドイツにコンビニが進出できない理由」といった内容の記事を見かける。そこで挙げられているのが前述の閉店法に加え、「ドイツ人のライフスタイルとは合わない」という理由だ。あくまで一般論だが、ドイツ人の多くはスーパーなどが閉店する午後8時より前の夕方の時間帯には帰宅してしまい、家族との時間を大事にするので夜の営業は必要ないという。しかも多くのドイツ人は習慣として夜の食事を質素に済ませる傾向にあり、食料品を夜に販売する必要性も少ないとされる。

 仮に夜間や週末に営業しても売り上げは少なく、従業員も集まらないだろうという見通しだ。生産性を重視するという観点から、スーパーなどの小売業者は利幅の少ない深夜営業や週末営業を行ってまで売り上げを追い求めない――。ドイツの小売り事情を紹介する記事は、よくそうした話で締められていたりする。

 だが、こうしたドイツの事情も少しずつ変化している。前述の「閉店法」は2006年6月以降、その運用が各州の判断に委ねられるようになり、少しずつ規制緩和が進んでいる。例えば「24/6」というルールが設定された州では日曜日と祝日を除く日の営業時間の規定がなく、事実上の24時間営業が可能だ。

 地元資本のスーパー「REWE(レーベ)」の系列店として2011年以降にオープンした「REWE To Go」は、店舗によっては深夜営業や週末営業を行っていたり、ケルンの駅構内店舗では24時間365日営業を実施していたりする。ほぼ日本のコンビニと同等の利用が可能だ。ニーズがなければこうした営業スタイルは維持できないわけで、これまでコンビニが存在しなかった理由をドイツ人のライフスタイルに求めるのは、現状を見る限り難しいと考える。