全5067文字
PR

 ここ半年ほど、1~2週間おきに実施している習慣のようなものがある。米国でよく行く都市のお気に入りのレストランや商店が営業を続けているかの確認だ。最後に渡米したのは今年2020年1月で、まだ新型コロナウイルスの話が出始めたばかりの頃だ。当時はここまで国境を越えた行き来が困難になるとは予想できなかった。それから10カ月で大手小売りの店舗整理が進み、取材でよく訪れるおなじみの都市の風景もきっと変わっていることだろう。

 特にデリバリーやテークアウトに頼らざるを得ない飲食業への打撃は顕著で、著名店舗の閉店話が流れてくるたびにその動向が気になってくる。筆者が行く店は決して高級店ではなく大衆店舗がほとんどだが、それだけに小規模で吹けば飛ぶような経営状態なのは容易に予想ができる。だからこそ、移動や休憩の合間にスマートフォンで地図アプリを開いてはお気に入り店舗の検索を行い、営業状況を調べているわけだ。

少なくとも年に3~4回は訪れる米サンフランシスコでお気に入りの店の1つ。ここで食べる麻辣香鍋(マーラーシャングォ)は滞在時の楽しみだ
少なくとも年に3~4回は訪れる米サンフランシスコでお気に入りの店の1つ。ここで食べる麻辣香鍋(マーラーシャングォ)は滞在時の楽しみだ
(撮影:鈴木 淳也)
[画像のクリックで拡大表示]

コロナで復活する、いにしえの事業モデル

 先日ニュースをチェックしていると、米紙Wall Street Journalの「Automats Make a Comeback in Covid-19 Pandemic」というタイトルの記事が目に入ってきた。ニューヨークのマンハッタンとはハドソン川を挟んで対岸にあたるニュージャージー州ジャージーシティに、Automat Kitchenという会社が自販機型のファストフード店舗を2020年12月にオープンする計画だという。

 扱うのはサンドイッチやポットパイなどのスナック的な品目が中心で、もともとは4月のオープンを予定していたが、新型コロナウイルスの急速な流行でここまで延期された。WSJのインタビューで同店のJoe Scutellaro氏は「パンデミック(世界的大流行)を予想していたわけではないが、コロナ禍においては結果として正しいコンセプトだった」と話しており、人と人との接触を避ける点で時代のニーズに即している点を強調する。

12月の店舗オープンを予告するAutomat Kitchenのサイト
12月の店舗オープンを予告するAutomat Kitchenのサイト
(出所:Automat Kitchen)
[画像のクリックで拡大表示]

 WSJがニューヨーク市の検査官Scott Stringer氏の8月のリポートを引用して報じたところによれば、3月1日~7月10日に同市で2800の小規模な店舗が閉店し、そのうち1289がレストランという。さらにニューヨーク州のリポートは今後半年以内に州内2万4000のレストランの半数近くが閉店に追い込まれると予測している。小売りをはじめとするサービス業態の中でも、レストランが際立って厳しい状況にあることがわかる。

 筆者が本稿を執筆している11月上旬の間、米国の各州・都市が相次いで再度のロックダウンを宣言し、学校などの公共施設の閉鎖や、飲食店やジムなど屋内施設の利用禁止を決めている。ロックダウンが緩和され始めた6月以降は徐々に売り上げ回復が報告されていた小売りやレストラン業界だが、特に後者はさらに厳しい状況に直面しつつある。

 全米レストラン協会が9月14日に発表した予測によれば、全米におけるレストランの約6分の1、数にして10万店前後が年内にも閉店し、約300万人の雇用が失われると警告している。既存店舗の売上高が一時回復したといっても、平均で前年比7割程度の水準にとどまっていることにも触れており、雇用維持や店舗の運営コスト面で岐路にさしかかっている。

 興味深いことに、ワタミの清水邦晃社長兼COO(最高執行責任者)が2020年末の忘年会シーズンに向けた新メニュー発表会場において、「(日本の居酒屋業界の売上高は)いろいろな取り組みを積み上げて、ようやく前年比7割に達する」と発言しており、7割という水準がレストラン業界の1つの目安になっているのではないかと考えている。

再ロックダウンに突入しつつある米国の各都市だが、ニューヨークでは新しいレストランの事業モデルに注目が集まりつつある(2019年6月撮影)
再ロックダウンに突入しつつある米国の各都市だが、ニューヨークでは新しいレストランの事業モデルに注目が集まりつつある(2019年6月撮影)
(撮影:鈴木 淳也)
[画像のクリックで拡大表示]

 これが意味するのは、「レストラン業界は前年比7割の売上高を想定した事業モデルへの転換が必要」ということだ。仕入れ原価や店舗維持費用、そして人件費と経費を差し引いていくと、レストラン業界の利益率は決して高くないとされる。飲食店関係者からは、例えばクレジットカードの決済にかかる3~5%の手数料が厳しいといった声も頻繁に聞く。仮に利益率が10%前後だとすれば、売上高が前年比7割の水準まで落ち込むと、それだけで赤字に転落する。人件費やテナント料などの固定費を抑えつつ、何とか店舗を回して売り上げを積み上げることが求められる。

 日本国内のファミリーレストランやファストフードが10月ごろから、デリバリーやテークアウトに特化した小規模な店舗を次々と立ち上げている。これも固定費を削減しつつ売り上げを積み上げて利益を何とか確保しようという試みだ。前述の米国における自販機レストランの登場も、こうした状況下で考え出された生き残りのアイデアの1つだろう。