新年の見通しを読んでいると、さまざまな形で「正常化」の概念が顕在化しているように感じる。インフレを懸念した各国における金利の引き上げ、その余波としての新興企業の評価急落、中国におけるコロナ対応の変化――。過去数年~10年の間に緩和されたり引き締められたりしてきた要素が自然な状態に戻りつつあるなかで、経済のダイナミズムをくみ取ろうとする文脈がうかがえる。
2022年は確かに、ベンチャーかいわいにとって暗い1年だった。高い成長性を担保に評価されていた企業群は、将来のキャッシュフローが評価の大部分を占める。そのため、長期金利が上がればその価値が大幅に割り引かれることは避けがたい。
初期投資が大きく収益化に時間がかかるため、毎年数倍の成長を遂げるような急成長領域でのプレーヤーは7割減、8割減といった評価急落がみられており、FinTech産業の中でも特に決済領域のプレーヤーは大きな打撃を受けた。
米国では、FinTech産業そのものの位置づけにも「正常化」のバイアスが働いたように思われる。2022年前半に訪れた金融サービスにおける消費者保護の動きがFinTechサービスを巻き込む流れは継続し、FinTechが競争を促進するキーワードから、良くも悪くも一般的な金融産業の一部になりつつある。一方で政治的には、テクノロジー産業にプレッシャーをかける文脈にも飲み込まれており、同産業の一部とみなされるようになったことも大きな変化である。
春を過ぎたBNPL、脱皮への試金石は消費者保護と料率の低下圧力FinTech産業に限った話ではないが、これらの変化は将来の資金調達への依存度が高いビジネスモデルにとって大きな打撃となった。該当する企業群は収益化を可能な限り前倒しするため、人員数を極端に減らしたり、思いつく限りのマネタイズ策を打ったりすることが重要になっている。2022年におけるテクノロジー産業最大のニュースと言える米Twitter(ツイッター)の買収なども、この文脈で注目された。
人員面では、多くのテクノロジー企業が50~75%の余剰人員を抱えているといった言説が共有された上で、それまでのベンチャー企業では行えなかったような、大胆という言葉を通り越した極端な人員削減を断行する潮流が現れた。こうした取り組みは、創業者ないしその延長で現れた経営者の手で実施されるより、買収の形で行われる方が実現されやすい。