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 昨今、中央銀行への注目度が高まっている。中国のデジタル人民元構想に続き、2020年1月21日には日本や欧州などの中銀6行がデジタル通貨通貨に関する新組織の設立を発表するなど、話題は尽きない。

 その中で今回取り上げたいのは、新組織設立にも名を連ねた英国のイングランド銀行が公表した「金融の未来像に向けたリポート(BOEリポート)」である。その読みやすさと新たな世界に向けた網羅的な視点から、金融関係者にとって必読の資料と言える。

 2019年6月に公表されたBOEリポートは、12の社会・経済における変化を背景として、金融システムが受ける影響や変容すべき方向性に触れ、中銀が取るべき9つの行動を提示している。この内容を踏まえ同10月には、中銀が取るべき政策に関するリポートも公表済みだ。

 BOEリポートのエッセンスは一枚の絵に凝縮されている。かなり広範囲な視点を含んでいるのが特徴だ。デジタルシフトやRegTechといったよく聞くテーマに加え、これまで一体と見なされてきた決済と預金業務のアンバンドル(解体)化、プラットフォーマーが既存の銀行制度を無効化してしまうといったデジタル面での非連続的変化、さらには低炭素社会、人口高齢化、インターネットを通じた単発受注型の働き方である「ギグエコノミー」の進展など社会全体の変質にも触れている。

「金融の未来像に向けたレポート」の要約
「金融の未来像に向けたレポート」の要約
出所:イングランド銀行
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 BOEリポートを一読した際、「随分、リスクを取って書いたものだ」という印象を持った。日本の金融庁に当たる英国の金融監督庁は、イングランド銀行の一部という位置づけ。つまりイングランド銀行が風呂敷を広げれば、金融規制や金融システムの在り方に実際にメスを入れるところまでコミットしなければならない。

 有識者の間でBOEリポートは、間もなく任期を終えるマーク・カーニー総裁の卒業リポートだとの評も聞かれた。彼の個人的な思いもあって、舞台が大きくなったのではないかというわけだ。しかし、実際に政策の作成、実行、評価というプロセスに取り組むのは次の総裁であり、BOEリポートの内容を実践するのは正直荷が重く、リスクではないかと筆者は感じたのである。

金融が透明化する時代

 しかしBOEリポートを丁寧に読み込むなかで、見方が変わった。今後、必要になることが冷静に書かれていることに気付くのである。

 デジタルに関連したテーマについては、英国でも最初の話題はキャッシュレス決済である。この点は日本と変わらない。英国における足元の現金決済比率は全体の34%を占めるが、スウェーデンが2010~2018年の間に39%から13%に低減させたことを引き合いに、同様の変化が英国に訪れた際のインパクトを分析している。

現金決済比率の将来予測
現金決済比率の将来予測
出所:イングランド銀行
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