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 誰もが知っている、ある会社がFinTechの取り組みを劇的に加速させている。

 この会社は昨年、米Goldman Sachs(ゴールドマン・サックス)から消費者向け事業の幹部や米Apple(アップル)との提携クレジットカード事業の責任者を引き抜いた。かねてより、ステーブルコインの開発を巡る特許申請が明らかになっているなかで、今年に入ってメタバースへの参入もほのめかす動きもみせている。さらに、FinTech企業2社の買収も公表。同買収では、「消費者がお金を受け取り、支出し、貯蓄し、借りられ、増やせる」サービスを志向するとしている。

 この会社の正体は、世界最大の小売業である米Walmart(ウォルマート)。従業員数は世界で220万人超、店舗数は1万500店超と名実ともに最大のスーパーマーケット事業者だが、アーカンソー州の本拠地での巨大な調達オペレーションや自動運転トラックの開発など、果敢な技術投資でも知られた存在だ。そのなかで金融分野での投資も有名だった。

 ウォルマートには2005年、銀行免許を申請して大きな論争を呼んだ過去がある。当時、同社はカリフォルニア州やオクラホマ州での金融機関買収に動いたが断念。その後、ユタ州における産業銀行免許を申請し、クレジットカードやデビットカード、電子手形業務を取り扱おうとする計画を立てた。しかし、金融界の大きな抵抗を受けて諦めることとなった。

 翌2006年には、電子マネーのサービスに乗り出している。同年より、加盟店のレジから入金可能なプリペイドカードを提供開始し、銀行口座を保有しない層でも送金や給与の入金ができる口座サービスとして提供している。その際のバックボーンには、過去に連載でも取り上げたグリーンドット銀行(当時は決済サービス会社)の技術を活用していた。

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 ウォルマートは小売業としての長い歴史のなかで、米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)を筆頭とするEC(電子商取引)事業者や、その他インターネットサービスの侵攻を受けてきた。だが、そこでも精力的なIT投資を貫いており、この数年は単に対抗するだけでなく、未来の技術を先取りしようとする姿勢すらうかがえる。それが冒頭に述べたステーブルコインであり、メタバースへの取り組みと言えるかもしれない。

 同社のステーブルコイン特許申請の内容は、ぜひ原文でもお読みいただきたい内容だ。ある意味、ウォルマートが意図する未来の決済像が見て取れる。

関連サイト 米国特許商標庁のサイト

 ブロックチェーン上で運営されるこのコインは顧客情報とひも付けられ、過去の購買履歴に基づいた分析ができる。結果、在庫量を節約したり、割引額を変動させたりといった顧客管理が可能になると述べている。また生活保護世帯などを想定して、R指定のDVDやアルコール、タバコへの消費を制約できるといった用途も明記している。

 米国のあらゆる消費者を受け入れてきた同社には、社会のインフラとして機能している側面がある。一方で、パターナリスティック(家父長的)とも思える顧客体験への介入姿勢も見え隠れする。

 2021年12月には、バーチャルな家具・家電を販売する意向が垣間見えるような商標登録を行っている。NFT(非代替性トークン)を活用してメタバース上でバーチャル商品を販売するというアイデアに、いかにもフィジカルな小売業であり、NFTのサービスを打ち出している米Nike(ナイキ)や米GAP(ギャップ)、米UNDER ARMOUR(アンダーアーマー)のようなブランドでもないウォルマートが関心を持っていることは、たとえ商標登録の段階であっても意外なニュースといえるのではないだろうか。

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