2021年のFinTechは、2つの巨大プレーヤーに関するニュースで幕を開けた。
1つは米国のノンバンクである米ソーシャル・ファイナンス(Social Finance、SoFi)による、SPAC(特別買収目的会社)を用いた上場計画だ。SoFiはもともと、スタンフォード大学生の学費ローンが驚異的な債務不履行率の低さであることに着目して、学費ローンの借り換えを旗印に拡大した会社だ。徐々にクロスセルするサービス群は広がり、いまや一般的な住宅ローンから暗号資産投資まで提供する総合的金融サービスとなっている。同社は昨年、金融当局から条件付きで銀行免許を付与されるに至っており、未上場でありながらも、FinTechを代表する総合的な金融ブランドとして成長していた。
そのSoFiが、昨今SPACの中心的プレーヤーとして名をとどろかせている米ソーシャル・キャピタル・ヘドソフィア(Social Capital Hedosophia)が上場させていたSPACと統合するというのだ。
昨年も、InsurTechの大型銘柄であった米クローバー・ヘルス(Clover Health)が37億ドルの企業価値評価でSPACによる上場を遂げたが、従来であれば大型のIPO(新規株式公開)として注目されたであろうSoFiもこの方法を採ったことで、とかく“裏口”としてみられがちなSPAC上場が王道的な方法となったことをうかがわせる出来事である。
もう1つは、米プラッド(Plaid)の米ビザ(VISA)との合併取りやめの報だ。ちょうど1年前の2020年1月に、VISAはアカウントアグリゲーションAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の最大手であるPlaidの買収を発表した。ところが市場の独占を懸念した米国の司法省が2020年11月に訴訟を提起、その見通しが晴れないなかで買収計画の中止を決定することになった。
このニュースは一見、VISAという最大の決済ネットワークと、Plaidという米国のFinTechエコシステムにおける必須プレーヤー間での、競争や独占を巡るさまざまな論点を引き起こすものではある。その分析は別の機会に譲りたいが、計画中止の真相としてより実際的な観点として、投資家たちによるEXIT(出口戦略)に向けた目線があったものと筆者は考えている。
昨年の買収は53億ドルという巨額の規模ではあったが、コロナ禍で進んだITプラットフォームに市場がつけている評価の上昇を受けて、より大きなEXITが可能という見通しがあったのではないか。さらに言えば先述のSPACが迅速な上場を可能にするのであれば、司法省による訴訟はコロナ禍を挟んだ市況の変化を受けて、若干渡りに船だったのかもしれない。
これら2つのディールの通奏低音にはSPACの存在があり、それが少なからず両社の上場や買収といった、重要なコーポレートアクションを加速させる方向に作用している。FinTech産業における投資回収期が本格的に到来していくなかで、素早い上場という時間を買うツールが出てきたことは、産業全体のスピード感をより加速させると考えられる。