普段の生活の中で、金融サービスを提供するのに最も効果的なポジションはどこだろうか。それは米Google(グーグル)の検索サイトでも米Apple(アップル)の「iPhone」でもない。職場だ。
オンラインであろうとオフラインであろうと、毎日出勤してくるビジネスパーソンと相対することができる。企業のバックオフィス機能を頼ることができ、本人確認はもちろん、評価に関する情報もある。職場という疑似的な社会における昇進や降格といったステータス変更は、この上ない信用情報だ。
それだけではない。確定給付型・確定拠出型の年金から医療保険や健康診断といったヘルスケアサービス、さまざまな福利厚生、団体保険に至るまで、本人の人生に寄り添うだけでなく、選択肢を減らすことでスムーズな意思決定を後押しする仕組みにあふれている。
何より収入の源泉だ。収入の裏側には、給与計算機能や社会保険上の処理機能が必要となり、これらを多くの会社が兼ね備えていることに鑑みれば、もう職場が金融サービスになってしまえばいいのでは、と思わされる。
20世紀には多くの国で、高度経済成長の中で長期雇用が維持された。そのような職場は、金融サービスの場として魅力も高かったといえよう。ただし21世紀に入り、産業の新陳代謝や経済社会の不確実性が高まる中で、雇用の流動化・不安定化が進み、長期にわたって単一の職場に所属するモデルは存在感を失っている。金融サービスとしての魅力も低下し、自助努力の必要性が叫ばれる中でFinTechも生まれてきた。
この変化の最先端、つまり流動化が最も進んでいる国際リモートワークの世界において新しいFinTech企業が生まれた。それが2年間でARR(年換算経常売上)が400万ドルから2億9500万ドルに急増した米Deel(ディール)である。