FinTechの勃興に伴う銀行の在り方を議論する際、「土管化を避ける」といった表現が使われることがある。これは、スマートフォンを中心とするユーザーインターフェース(UI)を提供するサービスと、実際に融資や決済取引を実行する金融インフラが分離し、後者だけを手掛ける金融機関がビジネス上の妙味を失ってしまうという危機感を表した考え方である。
しかし今回、声を大にして伝えたいのは「土管にもイケてる事例があるし、もうかる」という観点だ。
FinTechの本懐は、お金の動きを滑らかで分かりやすくすることにある。その世界を実現する過程で、消費者利便の定義が日々変わるサービスレイヤーと、決済や情報の保全といった普遍的な価値を有するインフラレイヤーの分離(もしくは疎結合化)は不可欠の要素だ。
海外でも様々なアンバンドリングの事例が出てきているなか、それを構成するプレーヤーは、金融関連の免許を必要とする業務を提供するインフラ事業者と、免許が必要な業務を代理・仲介するサービス事業者とに、かなり明確に分かれている。
金融の世界では長い期間、金融機関がこれらを一体提供することでセキュリティーや消費者の安心を担保してきたため、昨今の変化に対して生じる違和感は仕方のない側面もある。ただし、インフラという土管に徹することは、必ずしも悪いことばかりではない。
ブルガリの指輪やネックレスにある特徴的なデザインのリングを思い浮かべていただけるだろうか。トリビア的ではあるが、あのデザインは19世紀、富裕層の象徴だったガス管の所有をモチーフにしている。
日本社会におけるインフラと言えば、ともすれば水や安全のようにタダで手に入るものと片付けがち。しかし実際には、電気代や通信料について利用の度に「いくら消費しているか」と実感することは少ないだろうが、後々請求を見ると「それなりの支出だな」と感じるものだ。
金融サービスにおいては、口座維持手数料を巡る議論はあるものの、まだ月額課金のモデルが浸透しているわけではない。しかし、生活に必需のサービスとして、広く薄く付加価値に応じた売り上げがある。その土管としての力の一端に触れた直近のニュースを見てみたい。