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 二酸化炭素(CO2)の排出量実質ゼロを目指すに当たっての辛辣なリアリティーと、それでも捨てるべきではない希望――。ビル・ゲイツ氏の新著“How to Avoid a Climate Disaster”(2021年、未邦訳)は、示唆にあふれる1冊だ。

 同著のなかでもとりわけショッキングと言えるのが、平均気温の小さな変化がもたらす深刻な影響に対する指摘である。例えば、氷河時代は今より6度寒いだけだったし、恐竜が活動していた時代は今より平均で4度ほど暖かかっただけとされる。

 1度の気温上昇は大気の動きを活発にし、土壌の乾燥を招き、ハリケーンの巨大化や山火事の頻発を招く。結果、例えば1.5度の気温上昇と2度の気温上昇で生じる悪影響の間には、100%の開きがあるとされる。こうした事実は、我々が⽇常的に感じる気温差と平均気温差の違いを認識するうえで重要だ。それゆえに、米バイデン政権や菅政権がそれぞれ2050年までに「CO2の実質排出量ゼロ」を目標に掲げることの意義も実感を伴うものになる。

 この問題の難易度にも触れておく必要があるだろう。エネルギー消費と経済水準の間には密接な相関がある。エネルギーの恩恵を受けるべき国々に犠牲を強いることなく、CO2の実質排出量ゼロといった変化を達成するには、政策協調と風力・太陽光発電への移行に加えて、あまたのイノベーションや消費者の行動変化が必要となる。

 イノベーションの例をいくつか挙げれば、ひとつの季節を乗り越えるだけの電力網用蓄電池、セメントや鋼鉄をCO2の排出なしに生成できる方法、核融合・核分裂に関わるイノベーション、などがある。消費者の行動変化としては電気自動車の購入、富裕国における人工肉の普及などを挙げている。

 FinTechがテーマのこのコラムでも、サステイナビリティー(持続可能性)に関する主要テーマの1つであるCO2排出量実質ゼロを取り上げる理由はある。それは、社会における生産活動や消費活動を変えていくにあたって、データの活用が重要な切り口になっていくからだ。