以前、デジタル島のインフラ企業を自任する企業として、米Stripe(ストライプ)を紹介した。しかし同社にもついに、冬の時代が訪れたようだ。
「デジタル島」に登場した新たなインフラ企業の正体決済サービス業は厳しい市況を受けて苦難のなかにある。ただし、自らはカードを発行せず、仲立ちに徹するストライプは少し別の世界に生きているとみられてきた。未上場でもある同社の情報はタイムリーには発信されないものの、そのあまりに巨大なプレゼンスから、関係する上場企業の開示情報や第三者の評価資料、リークなどから全貌が分かりつつある。結果、この会社も冬とは無縁ではなかったことが明るみになってきた。
直近、同社は40億ドルともされる資金調達に動いている。ところが、2021年3月時点で950億ドルだった企業価値は、2023年2月の調達段階で550億ドルの評価に下がったとされる。38歳にして米General Motors(ゼネラル・モーターズ)のCFO(最高財務責任者)に就任し、2020年からストライプのCFOを務めていたディビア・スリヤデバラ氏も退任を表明した。
この間も、ストライプは相当な成長を遂げている。昨今話題の対話型AI(人工知能)「ChatGPT」の有料プランに代表される新しい経済のサービス課金インフラとして引き続き選ばれるなど、事業の強みが否定されているわけではない。にもかかわらず、悲観ムードに覆われているのはなぜだろうか。
最も近しい競合の存在
1つには、従業員の株式型報酬に関連して、23億ドルもの現金を3月末までに用意しなければならなかったことが挙げられる。これは、上場延期の影響もあって、過去に付与した報酬の仕組みが期限切れになったことから、ストライプ側に税負担が生じることに起因する。一部報道では、2023~2024年を通じて追加で12億ドルが必要とされており、成長に充てられないキャッシュの調達が求められることは交渉条件を悪化させる要因である。
また、ストライプは2020年にグロスの売上総利益が60%成長したが、2021年は27%にとどまった。成長鈍化も悲観論につながるものだろう。同社は今後の成長策として、企業向けクレジットカードや資金管理ソフト、ワンクリック決済などを準備しているともされるが、本来、「優秀なミドルマン(仲介者)」として機能してきた同社が、よりフロントエンドのサービスに進出することが正解かどうかは誰にも分からない。現に、サービス開発に時間を要しているともされる。
ただし、何より大きいのはコスト構造かもしれない。インターネット上の情報から推測するに、ストライプは2020年ごろは2000~3000人程度だった従業員数を、2022年には8000人近くまで増やし、その後に1000人強のレイオフを発表した。直近のレイオフでは、創業者たちによる丁寧なコミュニケーションが良い意味で話題になったが、とはいえコストがこの2年間で大きく膨張した点は否めない。弱り目にたたり目で、高速化を目指した大規模リファクタリングプロジェクトも最近頓挫してしまったとされる。
ストライプのコスト構造は、デジタル島におけるもう1つのインフラ候補者に光を当て始めている。オランダの決済企業であるAdyen(アディエン)だ。