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 米国がバイデン政権に移行して以降、金融サービス関連政策で目下、議論が白熱しているのが信用情報機関の在り方だ。バイデン大統領は2020年の立候補中から、民間3社の寡占状態にある米国の信用情報機関について、公的な機関を発足することで代替する政策案に意欲を示してきた。この議論を通じて浮かび上がってくるのは、一般からみた際の信用情報機関への批判的イメージや、平等というテーマに政策を通じて働きかけようとする民主主義の姿でもある。

 前回のコラムで「FICOスコア」を取り上げた。90%以上のシェアを持つといわれる同スコアのアルゴリズムの裏側は、アイルランドのエクスペリアン(Experian)、米エクイファクス(Equifax)、米トランスユニオン(TransUnion)という大手3社が実質的に寡占する信用情報機関の保有する情報によって構成されている。

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 信用情報機関は、米国では1970年に制定された「公正信用報告法(Fair Credit Reporting Act)」によって、情報の正確性や開示に向けた対応、ネガティブ情報(与信上マイナスに作用する情報)が正しくなかった場合の速やかな修正、ネガティブ情報の7年後(破産情報は10年後)の削除、といった義務を負っている。

 信用情報機関のイメージは、決して良いものとは言いがたい。債務を予定通り返済できなかったこと以外にも、誤った情報やなりすまし詐欺によって信用情報の悪化を招くことがある。債務返済能力に関係なくスコアが悪化した場合は、もちろん是正は可能だ。ただ、その手続きは実務上、諦めざるを得ないほどに煩雑で長期にわたることはよく聞かれるところである。

 また、信用情報が融資のみならず、住居の契約や保険、雇用契約などでも不本意に採用されている状況がある。信用スコアがいくら人種や年齢、雇用形態などを「直接的には」反映しないとしても、就職の機会が不均等であったり、所得の面においても結果的な不平等があったりするなかで、採用時の最終確認で信用情報が参照されてしまうわけだ。もともとの不平等を、信用情報機関の情報が生活面で助長してしまう点もまた、大きな批判対象になってきた。

 現にFICOスコアの分布を人種別にみてみると、620点以上のセグメントでは白人層では65%を超えるのに対して黒人層は35%弱にとどまっている。

白人・黒人におけるFICOスコアの分布(2016年時点)
白人・黒人におけるFICOスコアの分布(2016年時点)
(出所)Urban Institute、元データは米FHLMC
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 さらに法的には、信用情報は無料で開示されるのが建前。にもかかわらず実際には、信用スコアの改善方法などを示唆するため、各社が有償のリポートサービスを提供していることなども根底的な不満につながっている。

 極めつきとも言えるのが2017年のエクイファクスにおける情報漏洩だ。対象者が1億4000万人超に上った同事件は史上最悪の漏洩とも形容され、7億ドルの制裁金が科されただけでなく、大きな信用毀損になった。

 このように、信用情報機関に関しての不満要素は枚挙にいとまがない。信用スコアは、ただでさえ社会の不平等さを映し出す不人気な存在でもある。バイデン政権は、金融サービスで広範に感じられてきた不満の解消を公約することで支持を取り付けてきたと言えるかもしれない。