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 2021年7月26日、英国最大手のスーパーマーケットチェーンであるTesco(テスコ)の子会社Tesco Bank(テスコ・バンク)が、同年11月末以降に流動性預金の口座提供を閉鎖すると公表した。2014年に提供を開始した同口座は21万の規模に拡大していたが、2019年末以降は新規口座の開設を停止していた。今後、テスコグループにおける決済サービスは、専用のデビットカードである「Clubcard Pay」とクレジットカード事業に集約。そのほか、貯蓄性預金や英国有数の規模を誇る保険販売といった業務に注力していくこととなる。

 テスコ・バンクは1997年の設立以来、異業種による銀行参入の好事例として注目されてきた銀行だ。英国内のさまざまな金融商品の受賞も勝ち取ってきた。

 当初は、英The Royal Bank of Scotland(ロイヤルバンク・オブ・スコットランド)と50%ずつを出資する合弁会社としてスタートを切ったが、2008年にはテスコが持ち分を買い取って銀行子会社とした。スーパーマーケット最大手というポジションを生かし、クレジットカードや保険を含めて顧客数は500万以上を数える英国有数の金融機関に成長した。

 こうした数字と比べて、今回閉鎖の対象となった流動性預金における21万口座という数字はいささか少なく映るかもしれない。それでも、日本でいう普通預金口座の提供を中止することは、かなり思い切った動きだ。

 テスコ・バンクのゲリー・マロンCEO(最高経営責任者)はプレスリリースにおいて、同行が多くの人にとっての「メイン口座」ではなかったことに言及している。実際、利用者のうち、メイン口座としていたのは12%にすぎなかった。他の報道を見ると、給与振込先ではない口座では、必然的に当座貸し越しなどの収入につながる期待値も薄く、新型コロナ禍におけるゼロ金利環境が収益面で大打撃をもたらしたことが、口座提供の停止につながったように見える。

デジタルな接点に対しては劣勢に

 英国には、ほかにも大手スーパーマーケットで第2位のSainsbury's(セインズベリーズ)や、高級スーパーマーケットのMarks & Spencer(マークス&スペンサー)などの名前を冠した銀行が存在している。

 Sainsbury's Bank(セインズベリーズ・バンク)はテスコのケースと同じく、1997年に大手銀行である英Lloyds(ロイズ銀行)との合弁事業として創業しており、2013年に子会社化している。サービス利用者数は200万人とテスコ・バンクには至らないものの、有数の規模となっている。

 マークス&スペンサーは当初、英HSBCとの合弁銀行を設立したが、こちらは名称と免許はそのままに、2004年にHSBCの子会社となる形で運営されており、300万人を超える利用者がいるとみられている。

 スーパーマーケット系の銀行はそれぞれ、特にこの1年半の低金利環境によって銀行運営の妙味が激減しているとする報道が見られている。セインズベリーズ・バンクに関しては、もともと本業のスーパーマーケットとして最大手の地位をテスコに奪われてきた過去があるなかで、銀行業務がノンコア事業として見られるようになったこともあり、2020年後半には銀行事業の売却に向けた動きが報道された。マークス&スペンサーの銀行も同年3月、テスコ・バンクと同じく流動性預金口座の閉鎖と、29カ所に上るスーパーマーケット内の銀行店舗閉鎖を公表している。

 ゼロ金利環境は、スーパーマーケット系の銀行において大きな経営上の打撃となった。加えて、英国における英Starling Bank(スターリング)や英Monzo(モンゾ)といったオンライン系のチャレンジャーバンクが台頭し、激しい競争環境にさらされている。

 従来であれば、スーパーマーケットという最高の人流を基に顧客獲得につなげてきたが、デジタルな接点に対しては劣勢を強いられている状況が垣間見える。