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 今のFinTechを取り巻く環境を象徴するようなニュースが米国からもたらされた。2020年8月17日、クレジットカード大手の米アメリカン・エキスプレス(American Express)が、オンラインレンディングを提供する米キャベッジ(Kabbage)を買収することが公表されたのだ。

 2009年設立のキャベッジは、中小企業を主たる顧客層とするノンバンクである。筆者は2011年ごろ、同社の資金調達ピッチに居合わせた経験がある。当時から10分以内に融資判断を下せることを訴求していた。融資対象は「Amazonマーケットプレイス」などに出店するEC(電子商取引)事業者が中心で、商品の売れ行きや訪問者数など、あらゆる情報を基に新たな信用創造を行えるのが強み。トランザクションレンディングの代表格として、筆者も様々な機会で取り上げてきた存在だ。

 今回の買収額は非公表だが、報道によれば8億5000万ドルとされる。2017年の資金調達時点での評価額は12億ドルを超えていたが、これを下回る水準になった。ベンチャーの世界では、ビジネスが順調であれば資金調達ラウンドごとに評価額は上がっていく。この前提に立つと、様々な事情があるとはいえ、キャベッジが手掛ける事業の軟調さが加味されたエグジットになったと言える。

 バランスシートを主として使わない場合でも、融資分野のFinTechは景況感に左右されやすい。景気が大幅に悪化するなかにあっては、従来型の信用創造の出番がないからだ。現時点で、将来の正常な経済環境を見越して新規の融資を実行できる対象企業は極めて限定的だ。一方、政府の給与保護プログラム(PPP)が多くの米国企業の急場をしのぐ資金調達手段になっており、民間のローンにおける資金需要を抑制してしまう側面もある。

 米国の新興融資事業者は通常、融資の組成を担うことが最大の収益源になっている。実際には債権を長くは保有せず、証券化して投資家などに売却するビジネスモデルが多い。景気の悪化は貸出債権の信用ステータスが劣化する悪影響を招くが、より深刻なのは新規融資の件数が落ち込むことだ。融資案件を組成できなければ、業績に直接響く構造になっている。

 米国の代表的なFinTech銘柄の株価推移を見てみると、新型コロナ禍を通じて米スクエア(Square)や米ペイパル(PayPal)といった決済ソリューションの提供事業者は大幅に上昇している。それに比べて、融資サービスを展開する米レンディング・クラブ(Lending Club)や米オンデック(OnDeck)などは、もとより株価は低迷傾向にあったものの、2019年末対比でさらに半値未満に落ち込んでいるのが現状だ。こうした厳冬にも近い環境は、残念ながら当面変わる見通しが立っていない。

FinTech企業の株価(2019年末を100として指数化)
FinTech企業の株価(2019年末を100として指数化)
出所:米Yahoo! Financeより筆者作成
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