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 金融庁が2021年8月31日、「2021事務年度金融行政方針」を公表した。毎年夏もしくは秋に同方針が出るたびに、記載内容に関するFinTech業界の反省と宿題は何だろうかと考えている。本稿では当事者として感じたことを書いてみたい。

復活したFinTechという言葉

 まず、FinTechに関連する記載(本文P9~10)を見ていこう。言葉遊びレベルの気付きではあるが、昨年の行政方針では固有名詞を除き「FinTech」という言葉が本文から消えていた。ところが今年は、「資金決済を含め、国民の生活のインフラとなりつつあるフィンテック」として復活している。もっとも、ここで言うFinTechは金融システムにとっての伸びしろとしてではなく、既に金融システムの一部を構成する責任がある存在、としての意味合いが強いと感じている。

 この1年、ドコモ口座問題に端を発して、多岐にわたる決済のセキュリティーに関する制度整備が進められた。その過程では決済インフラの一部において、モニタリングが困難なリスクを厳格に制御する対応が取られてきたこともある。そこで生じた本人確認の在り方を巡る論点は、金融行政方針の前日に公表されたFATF(金融活動作業部会)の対日審査結果における厳しい結果も相まって、大きな改善が必要であり、FinTech産業が足を引っ張るわけにはいかない深刻なトピックである。

 その一方で、「新規参入や既存事業者の事業の拡大・多様化」といった記載が浮かび上がってくる。この数年間、実際にIPO(新規株式公開)に至ったFinTech事業者は、ロボ・アドバイザーのウェルスナビを例外として、多くは企業向けSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)や不動産取引といったサブドメインを抱え、金融サービスや金融システムの外郭で付加価値を提供する企業群が多かった。

 とはいえ、最近の未上場FinTech企業による大型調達案件をみると、証券管理分野のデジタル化やEmbedded Finance(組み込み型金融)のエネーブラー、後払いといった分野の事業者が名を連ねている。こうした金融の本丸に近づくプレーヤーが巨大化していけるかが、利便性の高い金融サービスを広く国民に届けるのに不可欠な要素となる。

 ベンチャーの上場は企業における成長過程の一イベントにすぎないとはいえ、そのメッセージ性は極めて強い。より多くの成功ストーリーが生まれ、それに続く後進を増やすことは引き続きサポートすべきテーマであり、その障壁に対してもまた積極的な対応をFinTech産業として図っていくべきだろう。

 比較対象として、米国における昨年以降に大型調達したFinTech企業(未上場)を概観すると、やはり金融の本丸に近いサービスが中心にあるといえる。従来、ユーザーのフロントに立って直接サービスを提供する米Robinhood(ロビンフッド)や米Chime(チャイム)といった事業者のイメージが強かったが、この2年間で管理ツールやAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の提供、個別の取引技術といったシステム側で付加価値を発揮するプレーヤーが、数百億円規模の調達に成功している。こうした変化を日本でも実現していくことは必要だろう。

2020年以降の米国FinTech企業(未上場)における大型調達
2020年以降の米国FinTech企業(未上場)における大型調達
出所:Crunchbaseより筆者作成
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