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 8月の本コラムで取り上げた“DX進化論”について、様々な感想を頂いた。「よくぞここまで考えていますね」と気を良くしたものもあれば、「ついにあっちの世界に行ってしまったんですね」という、微妙なニュアンスの言葉をいただくこともあった。

 だが、DX(デジタル変革)が難解なものに映ってしまったとすれば本意ではない。今回はそれを柔らかく捉え直しつつ、FinTechを取り巻く最大の課題についても触れてみたい。

飲食店が一足飛びにDX化

 下記は、ジョン・マエダ氏のリポートではなく、もっと基本的なバックオフィスにおけるDXの段階を表した図だ。

DXの段階図
DXの段階図
出所:筆者作成
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 一番左にはアナログな世界があり、電子化の壁を超えると電子データの世界が現れる。電子データのクラウド活用が進めば、自動化されたソフトウエアがいつでもどこでも使えるようになる。そして、多くの意思決定の自動予測・自動化が可能になって初めて、経営の高度化に資するDXが達成される。最終形態は、世の中の意思決定がアルゴリズムに委ねられる世界だ。官公庁や企業といった社会参加者の多くがDXの壁を越えていれば実現され得る。恐らくは効率的な世界が訪れることになるだろう。

 一連の変遷を見ていくと、世の中でDXが叫ばれている中、1つひとつの改革には、それなりに高い壁が存在する。それを何段階も越えていかなければならない現実を前にすると、やはりDXの浸透は遠いように感じられても不思議ではない。

 テクノロジーの世界では、こうした壁を愚直に1つひとつ越えていく必要はない。「リープフロッグ現象」と呼ばれるように、複数の課題を一挙に解決してしまう手段が訪れることはある。手前味噌な例かもしれないが、筆者が所属するマネーフォワードのクラウド会計ソフトは、電子化済みの企業群ではなく、多くの作業がアナログで実施されてきた企業での導入ケースが多い。なまじ電子化の壁が高いだけに、クラウド化のメリットまでを享受できることを見込めて初めて、旧態依然とした社内ルーチンを変えようとする勢いが付くケースが主流だと感じる。

 これらはバックオフィスについてだが、産業によってはDXの壁をも一気に越えるケースがある。コロナ禍によって身近になった人も多いであろう「Uber Eats」のような出前ビジネスは、配送する人たちの確保度合いに応じて、配送料をダイナミックに変化させながら需給を調整する。結果、これまでは出前のデジタル化すらしてこなかった飲食店が一足飛びに、価格決定アルゴリズムに拠る商売を考えるようになる。

 ある種、DXの模範的な形と呼べるものだ。最終的に経営者のマインドが変わり、今までにない戦略を採ることにつながっているかは、様々なDXの成果を判断する際に注視すべきポイントと言える。