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 イノベーションやテクノロジーに関わる人々にとって今年は、イーロン・マスク氏の動きが無視できない年になった。突如として沸き上がった米Twitter(ツイッター)の買収は、当初こそワイルドな臆測に過ぎないと捉えられていたが、今や現実のものとなっている。

 本コラム執筆時点で、マスク氏はツイッターの取締役を全員解任。既存のエンジニアには過去数週間に書いたコードを提出させ、同氏が米Tesla(テスラ)などから送り込んだ50人超のエンジニアがレビューをしているという報道もあり、買収後には人員の75%を解雇するとの発言もあったとされる。

 一説には、米テクノロジー企業が抱える人員は必要数の4~10倍とも言われてきた。マスク氏の動きは、テクノロジー企業の余剰人員を整理するトレンドをもたらすのではないかと、恐怖をもって迎えられている。

 平たく言えば、とんでもない買収者がやってきた局面だ。それでもなお、マスク氏に向けられるまなざしには、どこか期待が宿っているのも確かだろう。これまで散々に汚れてきた情報空間に対し、何か新しい世界を見せてくれるのではないか。何よりマスク氏本人が、“ツイ廃”と評されるほど熱心なツイッター利用者であり、愛するサービスにひどい仕打ちはしないだろうという楽観もある。

 こうした期待は、これまでのトラックレコードによって、より強化される。マスク氏への評価として筆者が実に的を射ていると感じるのは、彼が「社会で解決不可能と思われる課題を取り上げて、そこで商業的に成功できる能力」を持っていることへの賛美である。

 社会課題に注目を集めることは多くの人がやってきたし、解決に向けて政府などを動員して一時的な経済資源を集めることも可能だ。しかし、それを永続的な活動とするために商業的な、つまり需要と供給が存在するサービスとして生み出すことの難易度はけた違いに高い。それを彼は何度もやってのけてきた。

 例えば、地球環境が石油に依存しない自動車を必要としていたとして、それをきれいごとで片づけるのではなく、誰もが欲しがるブランドとして電気自動車を再発明・量産し、世界中に充電設備を張り巡らす事業が作り上げられるなど、20年前には信じられなかった所業ではないだろうか。少なくとも10年前、筆者はテスラをラクジュアリーブランドとしてみていた。

 人類が永続的に暮らし続けるために宇宙開発コストを低下させることが必須だったとしても、それを民間事業として解決できるとは誰も考えていなかった。だが、ソ連時代のミサイル技術に着目しながらロケットのコスト削減を実現するだけでなく、衛星によるインターネットアクセスサービスによって商業的に宇宙産業を意味あるものとしてしまうなど、誰が想像できただろうか。筆者は、米SpaceX(スペースX)の衛星ブロードバンド「Starlink」の誕生など全く想像できず、宇宙探索は金持ちの道楽と捉えていた。

 何度も奇跡を生み出してきた点は、いくら強調しても足りない感覚がある。他にも輸送用のトンネルを掘ったり、脳とコンピューターの接続を開発し続けたりしているマスク氏はいずれ、新しい人類の進展を起こすのだろう。そのような中、FinTechに関わる者として立ち戻る仮説がある。彼が“いま”、金融業を手掛けたらどうなるのだろうか。