2021年11月1日、中南米のFinTech企業が上場に向けた目論見書を米国証券取引委員会(SEC)に提出した。その名はNuBank。ブラジルを中心に、口座やクレジットカードを提供するプレーヤーだ。ラテンアメリカという潜在的に巨大なマーケットをターゲットとしたFinTech企業の代表格という存在感もあり、その動向は大きな注目を集めている。
NuBankが米国証券取引委員会(SEC) に提出した目論見書ラテンアメリカで何より問われるのは、アンバンクト問題(口座非保有問題)およびアンダーバンクト問題(信用創造)へのアプローチだ。これらの問題は、FinTechが向き合ってきた王道的な課題といえる。
NuBankの主たる展開国であるブラジルにおける口座非保有率は30%(2017年、世界銀行調べ)、他の展開国ではコロンビアが54%、メキシコに至っては63%と、目を覆うような水準となっているのが現状だ。これらの国々では、そもそも口座を持たない国民が資産を蓄積する場所を持っていなかったり、口座から生まれる与信という可能性にアクセスしたりすることができないといった問題に直面している。
「The Global Findex database 2017」(世界銀行)NuBankが論見書の随所で指摘するのが、伝統的なブラジルの銀行において口座を作ったり、クレジットカード/デビットカードを持ったりすることのコストの高さである。もともと5大銀行が80%以上の融資シェアを持つ同国では、スマートフォンが普及しているにもかかわらず、金融に関するイノベーションが生まれてこなかった。しかし、アンバンクト層やアンダーバンクト層に対して口座やクレジットカードを提供することは、コロナ禍における給付金の支給、Eコマースの利用といった死活問題になり得る重要な機能を届けることにもつながる。
口座数は4年弱で12倍以上、8割が自然流入
2012年に創業したNuBankは、特に2018年以降、破竹の勢いで成長している。同社の口座数は2018年初頭には370万だったが、直近では4810万(2021年9月末時点、うちアクティブ率は73%)と、4年弱で12倍以上に伸びた。特に、その80%以上の顧客獲得が広告ではない自然流入であったことや、NPS(満足度指数)が90を超えていることなど、しっかりと内実を伴った成長だといえる。
NuBankの口座は、残高に対して銀行と同等以上の金利が得られる。給与受け取りも可能だ。そのほか、無料での銀行口座との出し入れ、有償だがATM引き出しなどもできる。個人向け融資では月利2.1~5.0%(最大で年率79%)のクレジットカードローンを扱っている。インフレ率・信用リスクの高いブラジルでは、月利で13%以上ものローンも存在しており問題視されているが、独自の信用評価アルゴリズムによる負担引き下げを実現している。
結果、直近の数字でNuBankの売り上げは年額換算で14億ドルを超えている。その構成も、クレジットカードの金利収益と手数料収益でバランスが取れた形になっており、年間取扱高が4兆円に迫るクレジットカード決済からの加盟店手数料が主たる収入源となっている。