2020年11月18日、米アルファベットが「グーグルペイ」の新戦略を明らかにした。注目されるのは、家計簿機能や銀行口座の提供という新機軸を打ち出した点だ。筆者は講演などにおいてかねてより、「『グーグル銀行』が誕生すれば、ほかのサービスはいらなくなるのではないか」、と繰り返し述べてきた。こうした背景もあり、今回は新しいグーグルペイがもたらすインパクトについて分析してみたい。
ブラウザーとOSを通じて得たポールポジション
新グーグルペイは、同プラットフォームにおける利用履歴を解析することで、家計簿を自動作成したり、支払った飲食代を事後的に割り勘して請求したりすることができる。さらに、10万超の飲食店でアプリ経由の注文ができるほか、3万超のガソリンスタンドで給油が可能だ。駐車代も支払える市も400を超える。注文機能を提供することでユーザーの動線を押さえており、これまでの“決済アプリ”というより、行動のより上流から付加価値を届けられる“スーパーアプリ”に近い位置づけを得たといえる。
今回の新機能は、グーグルペイを利用できる店舗や用途をエコシステムの対象としている。ただし基本に立ち返ってみると、そもそも米グーグルは我々の日常的な世界とのインターフェースの大部分を押さえている。この厳然たる事実が多大なインパクトの源泉となる。
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Chromeの設定欄にはクレジットカードを事前登録しておく項目がある。筆者はオンラインショッピングの際、カード裏の3桁のセキュリティーコードを入力するだけで、暗記するのが難しい16桁のカード番号を自動入力してくれる機能を多用してきた。インターネット上におけるブラウザーは、人間の目であり手でもある。すべての情報や経済的な取引機会のすぐ横に決済機能がついていれば、とてつもなく滑らかな世界を実現できるはずだ。
こうした呼吸をするような場所に支払い手段を置けるという点で、本来、グーグルペイは無敵の存在と言える。効率的なブラウザー開発やスマートフォン向けOSの提供に向けて、人知を超えていると言ってもいいほどの投資を実施してきたグーグルが、得るべくして得た経済的ポジションと捉えられるかもしれない。近年のビッグテック脅威論に照らすと、いくらでも懸念を見いだせるのも事実だ。