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 もう5年以上前のことになる。FinTech産業を代表するメンバーと対談した際、米国でFinTechの調査をすると決まって貧しい層向けの話が出てくることを述べた。そのとき、ふと出た「貧テック」という言葉が語感もあって1人歩きしていったのだが、資産や収入がないだけで本来享受すべき金融サービスが得られない状況が存在することは、金融産業においてほぼ恒久的に横たわる課題である。本来、提供コストを下げ、サービスの包摂性を高める存在であるFinTechにとって、この問いはレゾンデートルにも近い。

米国家計のウェルビーイング統計

 そんななか、筆者が例年注目している調査がある。米連邦準備理事会(FRB)が2013年から毎年発行している、家計のウェルビーイングに着目したリポートだ。目的は家計セクターにおけるリスクのモニタリングで、生活が苦しい層における金融面での実態調査にもなっている。

 ここでの質問の仕方はユニークだ。“at least doing financially okay”、つまり「今、生活は金銭的に何とかなっているか」という問いから始まる。“okay”と回答している世帯はオバマ政権後期からトランプ政権にかけて改善し、新型コロナウイルス禍のアップダウンを経ても、75%の家計において生活が維持されている実態が明らかになっている。

「金銭的に何とかなっている家計の割合」の時系列推移
「金銭的に何とかなっている家計の割合」の時系列推移
出所:FRB”Report on the Economic Well-Being of U.S. Households in 2020 - May 2021”より画像引用
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 一方で、この調査でより注目されるのは、「400ドルの緊急支出を現金同等物で支払えるか」を問う質問だ。この統計は、自動車の修理や軽微な医療費といった臨時支出に対して、手持ちの資金やクレジットカードの一括払いで支払えるかを聞いている。同指数はコロナ禍での給付金や消費萎縮によって一瞬上向いたものの、その後はコロナ前と同じように3割以上の家計にとって、比較的軽微な臨時支出でも苦難をもたらす状況が示されている。このような家計では、例えば歯科治療を受けなかったり処方薬を買わなかったりといった行動に直結するのが医療コストの高い米国の実情でもある。

400ドルの緊急支出を現金同等物で支払える割合
400ドルの緊急支出を現金同等物で支払える割合
出所:FRB”Report on the Economic Well-Being of U.S. Households in 2020 - May 2021”より画像引用
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 金融サービスへの言及もある。調査を受けた米国人のうち、81%は十分な銀行サービスを受けていると回答している。ただし、13%がアンダーバンクト、定義上は給与前借サービス(かなり高金利の融資サービス)、質屋、小切手の現金化といった代替的な資金サービスを利用しており、銀行ではないサービスで目先の資金を得る手段を用いていることが分かる。さらに5%がアンバンクト(銀行口座を持っていない)、さらにそのうちの半分未満が前述の代替的な資金サービスも利用していない。

 このようなサービスを享受できるかは、所得の多寡に大きく影響される。そして、所得と相関が高いと思われる学歴や人種の影響もあり、アンバンクト比率は高校を出ていない人では26%にも達するほか、白人では3%であるのに対し黒人では13%に上るという格差が浮き彫りとなっている。

学歴や人種とアンバクト比率の相関
学歴や人種とアンバクト比率の相関
出所:FRB”Report on the Economic Well-Being of U.S. Households in 2020 - May 2021”より画像引用
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