「ある世紀における変革と言われる出来事は、50年ぐらいの時間の幅がかかっていることもある」
友人が発したこのせりふに、妙に納得した覚えがある。今から20年前の2000年ごろ、これからはインターネットの時代に変わると言われ始めた。当時の書籍では生活のあらゆる場面にネットが入り込むと言いはやされ、ネットバブルが起きた。
あれから20年、いまだにネットを活用していない業種や業務は多い。21世紀はインターネットによって変わったと後に言われるようになるとしても、友人の言を借りれば完成までにはあと30年はかかるのかもしれない。
では2020年におけるネットの空模様はどうなっているだろうか。筆者は2020年になって、ようやくインターネットが個人の生活や働き方、企業のビジネス活動を変える時代の入り口に立ったと感じている。逆に言えば今までの20年間におけるネット活用は序の口にすぎず、本当の意味での変化を誰も目にしていないと考えている。
なぜこう思うのか。象徴的な出来事をいくつか挙げながら考えてみたい。
黒字リストラ拡大の衝撃
ITは個人の生産性拡大をもたらした。1人当たりの生産性が向上しできることが増えた。古くはワープロとコピー機によって印刷複製の手間を減らし、作り直し可能な書類を簡単にできるようになって試行錯誤しやすくなった。書類作成のミスが減り、工夫を凝らすコストが下がった。その後、電子メールやグループウエアによって印刷や複製、配布の作業すら電子化された。オンラインでスケジュールを管理し、電子データを介して即座に仕事の意思決定が可能になった。必要最低限のコミュニケーションで意思決定できるようになり、ビジネスのスピードは格段に上がった。
IT業界にいる筆者も無縁ではない。会社の重要事項の情報はチャットツールSlackを通じて共有し、botなどの自動化されたインターフェースを通じて情報を共有し、Google ドキュメントなどのアクセス権を適切に管理してインターネットにつながった環境で重要情報をやりとりする。情報システム部門は情報を守る策を検討するが、昔のようにオンプレミスのサーバーや社内のパソコンをインターネットから隔絶したりはしない。インターネットネーティブだからこその難しさとリスクを共存させながらも、スピードを上げるにはネット活用が欠かせない選択となっている。
デジタルトランスフォーメーション(DX)が全盛の昨今、インターネットによる生産性や働き方変化についていけないともはや生き残れない。
「黒字リストラ」拡大、19年9100人 デジタル化に先手――。日本経済新聞にこんな見出しが踊った。好業績にもかかわらず人員削減を打ち出す企業が増えているというのだ。理由は様々だが、デジタル時代に対応した人材を求める動きが背景にあるとされる。
黒字リストラの記事によれば早期退職者の対象年齢を自分の年齢のほうが超えてしまっていて胸が痛い。筆者が新卒の時に第1志望だった会社がリストラを繰り返しているのを見ると、今後の自分がどうなるか分からないという前提を置いたとしても、過ごしてきたキャリアが少し違っていたら、リストラの対象者になっていたかもしれない。企業がいよいよネットとデジタルの時代に応じて変革に動き出した出来事として象徴的であると同時に、自分事としても胃の痛くなる事案である。