型枠を使わずに有機的な形状のセメント系構造物を製作できる、建設用3Dプリンター。現場を「工場」に変える力を持つだけでなく、これまで施工が難しかった新しい構造や形状を具現化する可能性を秘めている。海外に比べて出遅れている日本でも、建設用3Dプリンターの導入や開発の動きが出てきた。まずは、国内の動きを見ていこう。
大林組は2019年8月29日、産業用ロボットアームによる大型3Dプリンターと、2種類のセメント系材料を用いて、圧縮強度と引張強度を兼ね備えた構造物を製造する技術を開発した。曲面型枠や鉄筋を使わず、自由な形状を実現できる(写真1、2)。
同社の技術研究所で、全長約7m、幅約5m、高さ約2.5mとなる「シェル型ベンチ」を製造。セメント系材料を用いた3Dプリンターによる構造物としては国内最大規模となる(図1)。
同社は、17年に化学メーカーのデンカ(東京都中央区)と共同で開発した特殊モルタルを用いて、3Dプリンターで長さ約1.8mの小規模なアーチ橋を試作した実績がある。
その際に積み残した課題が2つ。1つ目は引張強度が十分に出ないことだ。鉄筋コンクリート(RC)造では鉄筋が負担する引張力を、吐出(としゅつ)するモルタル材料のみで持たせるのが難しかった。
2つ目は、アームを動かして材料を積層する際の経路の自由度が低いこと。17年時点では、製造時に一気に特殊モルタルを吐出しなければならず、一筆書きで描ける経路にしか対応できないため、自由な形状の構造物を実現できる3Dプリンターの特性を生かしきれなかった。