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 コンクリート3Dプリンターで、橋や住宅などの大型構造物を建設するプロジェクトが進むオランダ。研究者として技術開発を率いるアイントホーフェン工科大学のテオ・サレット教授に、技術開発の状況と活用の見通しを聞いた。(聞き手は長谷川 瑤子=日経 xTECH/日経コンストラクション)

建設分野での活用が注目されているコンクリートの3Dプリンティング技術とは、そもそもどのようなものですか。

 現在私が取り組んでいるのは、3次元の設計データを基に、3Dプリンターでモルタルを1層ずつ重ねて構造物や部材を構築する技術です。

アイントホーフェン工科大学のテオ・サレット教授(写真:日経 xTECH)
アイントホーフェン工科大学のテオ・サレット教授(写真:日経 xTECH)
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 プリンターの構成要素は主に3つあります。1つ目は、設計通りの3次元座標にモルタルを配置するロボット。2つ目が、「ウエット・システム」と呼ぶ部分。ミキサーやポンプ、ホース、ノズルなど、モルタルの通り道となる機材です。

 最後が、ロボットとウエット・システムを同時に制御するコンピューター・システム。美しく積層するには、ロボットの移動速度とモルタルの押し出し量の細かな調整が必要になります。例えば、曲線区間で考えると分かりやすい。曲線部でモルタルを一定の速度と量で押し出していくと、内側と外側の軌道の差によって、内側にモルタルがたまってしまう恐れがあります。

そのままではアーチにしか使えない

 さらに、ロボットの移動速度とモルタルの押し出し量は、施工品質やモルタルを積み上げられる高さにも影響します。積層が早過ぎると、固まりきっていないモルタルが自重で崩れてしまう。逆に遅過ぎると、モルタルが流動性を失い、上下の層が一体化しません。

 こうした条件を踏まえ、モルタルの流動性や硬化速度に応じて適切な積層速度を設定できるようにすることが、技術開発の第一歩でした。

アイントホーフェン工科大学のコンクリート3Dプリンターでモルタルを積層し、橋桁の部材を築く様子。上に見えているのが桁の断面。設計の自由度が高い3Dプリンターの強みを生かし、中空断面を採用した(写真:BAM Infra)
アイントホーフェン工科大学のコンクリート3Dプリンターでモルタルを積層し、橋桁の部材を築く様子。上に見えているのが桁の断面。設計の自由度が高い3Dプリンターの強みを生かし、中空断面を採用した(写真:BAM Infra)
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開発した3Dプリンティング技術は、2017年10月に架設された自転車・歩行者橋の部材の製造に適用しています。モルタルを積めるようになったら、すぐに大型の構造物を造れるようになったのでしょうか。

 モルタルが固まって出来上がる構造物は一般的なコンクリートと同じように、圧縮に強くて引っ張りに弱い特徴があります。圧縮力で力を伝えるアーチ構造にしない限り荷重を支えられず、構造物としての使い道がほとんどありません。

 そこで、3Dプリンターで造った構造物をどのように補強するかが次の課題として浮かび上がりました。