建設用3Dプリンターの実践的な活用で日本が遅れた理由は、制度面の障壁だけではなさそうだ。慣習にとらわれない柔軟な姿勢が、技術の可能性を押し広げる。
3Dプリンターの活用で先行する製造業で、日本企業の技術力は高い評価を得ている。にもかかわらず、建設用3Dプリンターの開発で海外に遅れを取ったのはなぜか。
その理由を、国内の建設業関係者の多くは、「耐震性能の要求水準が高いから」だと話す。海外で事例の多い簡易住宅の製造に挑戦しようにも、日本では建築基準法の厳しい制限を受ける。土木でも、適切な補強方法や性能照査の手法が確立しない限りは展開が難しいとの見方が大半だ。
さらに、「生産性の向上にそれほど寄与しないのではないか」と懐疑的な声も上がる。現状の3Dプリンター技術では、鉄筋を挿入したり、乾燥防止の薬剤を表面に塗ったりするのに人手を要する。完全に自動化するには細々とした周辺作業の機械化も不可欠になるため、開発のロードマップを描きにくい実情もある。
だが、東京大学大学院工学系研究科の石田哲也教授は、「3Dプリンターは人の作業を代替するだけの技術ではない」と指摘する。
3Dプリンターを使えば、「維持管理しやすい桁断面」や「周辺の生態系を邪魔しない橋梁」といった新しい機能を持った構造物を実現できるかもしれない。さらに、ジオポリマーや複合材料など、新材料の活用に着目した技術開発も一部で始まっている。
従来の慣習を突き破らなければ、新しい価値は生み出せない。デジタル生産技術を専門とする慶応義塾大学環境情報学部の田中浩也教授は、「3Dプリンターを使いこなすには、設計思想から抜本的に変える必要がある」と強調する(図1)。
- パラメトリックデザイン
3次元モデリングの際にデザインの特徴を変数として設定しておく設計手法。数値を変動させるだけで、1つのデザインから多数のバリエーションをたくさん生成できる - トポロジー最適化
解析を通じ、構造部材が必要な強度を確保しながら、不要な材料を削った最適な設計案を見つけ出す手法。人の発想にはない設計案の実現や軽量化の可能性を広げる - DfAM(Design for Additive Manufacturing)
付加製造、すなわち3Dプリンティングに最適化した設計手法を指す。トポロジー最適化や複合材料の組み合わせなど、6つのコンセプトを組み合わせた手法として整理される