全3452文字
PR

ドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)がソフトウエア開発の専門組織を立ち上げた。VWやアウディ(Audi)、ポルシェ(Porsche)などの各ブランドからソフト技術者1万人を集める。ソフト基盤「vw.OS」のほか、コックピット、自動運転、車両制御などの各ソフトを自前で開発する。自動車メーカーからソフトウエア企業への転換をどのように進めるのか、同組織の責任者に聞いた。

 「ソフトウエア開発を外部に任せるのではなく、自分たちで作る。ソフトそのものを我々が理解したいからだ」。ドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)でソフトウエア開発の専門組織「Car.Software」を率いるChristian Senger氏(Member of the Board of Management of the Volkswagen Passenger Cars brand with responsibility for ‘Digital Car & Services’)はこう語る。70億ユーロ(120円/ユーロ換算で約8400億円)を投じてソフトの内製比率を現状の10%未満から2025年に60%に高める(図1、2)。

図1 クルマメーカーからソフトウエアメーカーへ
図1 クルマメーカーからソフトウエアメーカーへ
約70個のECUを、3~5個の高性能コンピューターに集約し、ソフトウエアの内製比率を60%に高める。ソフトウエアを競争力の源泉と位置づける。VWの資料を基に日経Automotiveが作成。
[画像のクリックで拡大表示]
図2 VWでソフトウエア部門の責任者を務めるChristian Senger氏
図2 VWでソフトウエア部門の責任者を務めるChristian Senger氏
これまで車載ソフトは外部の企業に頼ってきたが、複雑化を回避し、競争力を高めるためにソフトウエアを内製し、ソフトそのものを理解することが重要と指摘する。(撮影:日経Automotive)
[画像のクリックで拡大表示]

 車載ソフトウエアは今後、指数関数的に複雑さを増すといわれている。例えば、「VWブランドの大型SUV(多目的スポーツ車)『トゥアレグ(Touareg)』は、ソフトウエアのコードが約1億行ある。これはスマートフォンの約10倍だ」(同氏)。しかし、「本当は1億行も必要ないのではないか」(同氏)と指摘する。

 現状の電気/電子(E/E)アーキテクチャーでは、約70個のECU(電子制御ユニット)があり、それぞれが種類の異なるOSやソフトウエアを搭載する。「クルマ全体でOSが何種類走っているのか、コーディングツールは最適なのか、診断の効率は高いのかなど、全体像を十分に精査できていないために、これほど巨大なコードになってしまっている可能性がある」(同氏)という。

 VWはソフトウエアの複雑化に対応するため、電気自動車(EV)の「ID.3」を皮切りにE/Eアーキテクチャーを刷新する。従来の約70個のECUを最終的に3~5個の高性能コンピューターに集約し、ソフトウエア基盤を「vw.OS」に一本化する。そこにはスマートフォンをお手本とする考え方がある。「『iPhone』がなぜこんなに成功したのか。それは無駄のないリーンなソフトウエア構造を実現したからだ。それによって処理負担を減らし、エネルギー効率を改善した。クルマにもまったく同じことがいえる」(同氏)。

 新しいE/Eアーキテクチャーではハードウエアとソフトウエアを分離する。これは無線によってソフトを更新する「OTA(Over The Air)」を行う上で欠かせない。「これまではソフトウエアを更新する際にハードウエアとの互換性を個別に検証する必要があった。これはさすがに無理だ」(同氏)とする。

 同社はこれまで新しいE/Eアーキテクチャーやvw.OSの開発に多大な労力をかけてきた。その結果、「まずまずの成果を挙げることができた」(同氏)という。vw.OSは、まずはEV専用プラットフォーム「MEB」を採用したID.3から導入するものの、すべての機能は入っていないという。「完全版のvw.OSは、2023年に高級車向けのEVプラットフォーム『PPE』に導入する」(同氏)。

規模のメリットを最大化

 VWはvw.OSを広く普及させ、最終的に「iOS」や「Android」と同じようなデジタルプラットフォームに育てたい考えだ。その際、「最も重要な指標はアクティブユーザー数だ」(同氏)という。

 同社は年間1000万台規模の販売台数を誇り、ユーザー数では有利なはずだ。ところが、「現状ではプラットフォームが8つもあり、1000万台を8で割ってしまっている」(同氏)という(図3)。「デジタルの世界では小規模な企業に成り下がっている」(同氏)。

図3 ソフトウエア基盤を1種類に統合し、規模の強みを生かす
図3 ソフトウエア基盤を1種類に統合し、規模の強みを生かす
デジタル化を進める上で最も重要なのは、そのソフトウエア基盤を利用するユーザー数である。VWは年間1000万台規模のクルマを販売しているため、ソフトウエア基盤を統合することで規模の強みを生かす。VWの資料を基に日経Automotiveが作成。
[画像のクリックで拡大表示]

 そこで同社は車両のプラットフォームが異なっても、ソフトウエア基盤はvw.OSに統一する考えだ。具体的には、エンジン車用のプラットフォーム「MQB」「MLB」、EV用のMEB、PPEのそれぞれにvw.OSを搭載する。2025年までにグループ全体の新型車をすべてvw.OSベースにする。「年間1000万台なので、5年で5000万台、10年で1億台。十分な存在感を出せる」(同氏)。

 グループ内だけでなく、vw.OSを他の自動車メーカーに外販することも視野に入れる。「MEBの販売を通じて、ハードと一体で提供されるvw.OSを外販する。vw.OSの機能や価格、信頼性をベンチマークするためにも外販は避けて通れない。ただ、まずはVWブランドでvw.OSを成功させることが優先課題だ」(同氏)と述べる。