日経アーキテクチュアによる「10大建築人2020」で、2位には竹中工務店の花岡郁哉氏が選ばれた。2019年3月に完成した「EQ House」の設計が高く評価された。コンピュテーショナルデザインを駆使して実現した体験施設だ。
竹中工務店東京本店設計部の花岡郁哉氏がリーダーを務める設計第2部門の設計4グループ、通称アドバンストデザインチームは、社内で最先端の設計に取り組む部署だ。このグループの成果を語るうえで外せないのが、2019年3月に完成した東京・六本木の「EQ House」である。近未来を先取りして建てた「家」といえる。
花岡氏はEQ House全体を、特徴的な外装パネルで覆った。プログラミングで形を生成するコンピュテーショナルデザインで、外観のプランを練リ上げた。
EQ Houseの話を始めると、花岡氏は止まらなくなる。この建物には、強い思い入れがあるからだ。
例えば、「この家は呼吸をしている」といった言葉が、花岡氏の口から自然に飛び出してくる。屋根や壁が周囲の環境の変化を読み取り、住み手にとって心地いい状態をつくり出してくれるという。EQ Houseはそんな近未来の家の姿を具体化したものだ。
内部には、リビングやキッチンとモビリティーをつなげた空間を用意した。住宅を構成する全ての要素が「つながる」イメージを表している。
照明は周囲の環境を自ら「感じ取って」明るさを変える。周りがにぎやかで騒がしければ明るい光を放ち、静まり返れば照明を落として「家が深呼吸を始める」(花岡氏)。つまり、住人を穏やかな眠りへと誘う。
家の様々な要素が住人に寄り添い、その人が求める快適さを学習しながら成長していく。花岡氏は未来の家をそう考えた。「育つ家」と言い換えてもいい。
当然、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった最新のテクノロジーが家の中に入り込んでくることを、花岡氏は初めから想定している。「テクノロジーは常に変わっていくので、最新のものを貪欲に取り込む。私にとっては自然なことだ」(花岡氏)。建物はいわば、住空間をセンシングする巨大な装置になる。
しかし、どんなに時代が変わっても「人が建築に求めるもの、つまり快適性や安全性は変わらない」。テクノロジーはその体験レベルを高める手段であるというのが、花岡氏の考えだ。設計者は「変わるものと変わらないものをきちんと見極めなければならない」と、花岡氏は持論を述べる。
ただし、こうした発想を頭の中で思い描くだけでは足りない。「コンセプトで終わらせず、設計者としてきちんと道具をそろえて、技術的に建築として成立させることが我々の仕事だ」(花岡氏)。そのためには決して妥協しない。