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 半導体の微細化、いわゆるMooreの法則の終焉(しゅうえん)が叫ばれて久しい。Mooreの法則は、もう終わった、まだ続く、という議論が繰り返されてきた。どちらも正しい。ある分野では、主にコスト面から微細化の魅力はなくなっている。別の分野では、主に性能面から微細化の恩恵を今でも受けている。実際に起こっているのは、微細化ピッチの鈍化と、微細化の恩恵を受けている分野の漸減である。

 例えば、コンピューティングの分野では、マイクロプロセッサー(MPU)の微細化は続くもののそのペースが鈍くなっている。これによってMPU一辺倒の時代が終わる。微細化のペース鈍化によって、これまでの性能向上のトレンドが維持できなくなるからだ。それを補償するために、さまざまな演算リソースに特定のワークロードを実行させる。これによって、性能向上トレンドの維持を図る。さまざまな演算リソースを組み合わせるヘテロジニアスコンピューティングが、2020年頃から本格的に発展していく。

へテロジニアス・コンピューティング・システムで使われるチップの例。Intelのスライドである。左端はMPU、その右がGPU、その右がFPGA、右端は特定処理のアクセラレーターチップ。このスライドでは右端にはDNN処理ICやビジョン処理ICが並ぶ
へテロジニアス・コンピューティング・システムで使われるチップの例。Intelのスライドである。左端はMPU、その右がGPU、その右がFPGA、右端は特定処理のアクセラレーターチップ。このスライドでは右端にはDNN処理ICやビジョン処理ICが並ぶ
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 現在、コンピューティング分野、特にサーバー向けプロセッサーは、米IntelのMPU「Xeon」の独壇場である。Mooreの法則に名を残すGordon Moore氏はIntelの共同設立者の一人であり、同法則の維持は同社の社是となっている。後述するように、Intelは台湾TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co. Ltd.)、韓国Samsung Electronicsと並び、現在でも微細化を追求する半導体メーカーである。ただし、それだけでは立ち行かないことはMooreの法則発祥の企業だからこそよく分かっている。Intelは、次の時代、すなわち、ヘテロジニアスコンピューティング時代への準備を進めてきた。

 例えば、Intelは2015年にFPGA(Field Programmable Gate Array)メーカーの米Alteraを買収し、10nmプロセスで製造する新たなFPGAファミリー「Agilex」の量産を2020年に始める予定である(関連記事)。2016年にはディープ・ニューラル・ネットワーク(DNN)処理ICの米Nervana Systemsを買収し、同社の技術をベースにした最新ICを2製品、すなわちDNN学習用の「NNP-T1000」とDNN推論用の「NNP-I1000」を2019年11月に発表した(関連記事)。同じく2016年には、ビジョンプロッセサーICなどを手掛ける米Movidius社も買収し(関連記事)、同社の技術をベースにした第3世代の「Movidius VPU」を2019年11月に発表した。Movidius VPUはDNN処理にも使える。さらにIntelは、2019年12月に3社目のDNN処理ICメーカー、イスラエルHabana Labsを買収した(関連記事)。

 以上のようなFPGA、DNN処理ICだけでなく、IntelはディスクリートのGPU(Graphical Processing Unit) IC「Ponte Vecchio(開発コード名)」も2020年~2021年に市場に投入する予定である(関連記事)。同社のGPUはMPUの一部として集積されてきたが、米NVIDIAや米AMD(Advanced Micro Devices)のディスクリートGPUに対抗するチップを提供していく。

へテロジニアス・コンピューティング・システム向けのアプリケーションソフトウエア開発環境の例。Intelのスライドである。C++とSYCLをベースに同社が開発した新言語「DPC++(Data Parallel C++)」を使って、異なる種類の演算リソースのプログラミングを統一して扱えるという
へテロジニアス・コンピューティング・システム向けのアプリケーションソフトウエア開発環境の例。Intelのスライドである。C++とSYCLをベースに同社が開発した新言語「DPC++(Data Parallel C++)」を使って、異なる種類の演算リソースのプログラミングを統一して扱えるという
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 Intelはこうしたハードウエアだけでなく、ヘテロジニアスコンピューティング時代のアプリケーション開発環境も提供する。同社はへテロジニアスコンピューティング用のプログラミング環境として「oneAPI」の整備を進めており、そのベータ版をクラウド上のソフトウエア開発環境「Intel DevCLOUD」で利用できるようにした(関連記事)。one APIでは、同社がC++とSYCLをベースに開発した新言語「DPC++(Data Parallel C++)」を使って、異なる種類の演算リソースのプログラミングを統一して扱えるという。複数種類のIC(演算リソース)へのワークロードを割り振り方をoneAPI上で比較検討することで、へテロジニアス・コンピューティング・システムの性能追求を可能にする。