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 ウィズコロナのニューノーマル時代を迎えたいま、私たちの生産と消費には大きな変化が訪れている。様々な業界が戦略転換を迫られる中で、次の一手として期待が高まるのが非接触テクノロジーの活用である。その応用が拓くこれからのビジネスについて、ドイツStatista(スタティスタ)が提供する世界の統計や市場調査データを基に考察する。まずリテール(小売)業界を取り上げ、4回にわたって連載する。第2回第3回では、買い物客に利便性をもたらす非接触テックについて紹介した。最終回となる第4回では、ウィズコロナのリテール分野で必須となる、安心して買い物を楽しんでもらうための非接触テックについて取り上げる。最後にまとめとして、非接触テックで日本企業が成功するための3つの条件を示す。

 ウィズコロナ時代の店舗では、買い物客が安心して買い物を楽しめることが絶対的な条件になる。そのための非接触テックである「HVAC(Heating, Ventilation, Air-conditioning)」と「BOPIS(Buy Online Pick-up in Store)」は、リテール・ニューノーマルの注目株として、世界規模で市場の伸びが期待される。

 まず、HVACについて。新型コロナウイルスの感染対策として、飛沫を直接浴びないことが最も重要だとしても、自分の周りの空間が十分に換気されているかは大きな関心事となる。HVACの世界市場規模は、2018年から2024年にかけて出荷台数ベースで年間平均4.5%程度の伸びが期待されている(図1)。

図1 HVACの世界市場規模の予測
図1 HVACの世界市場規模の予測
出荷台数ベース。2017年当時の予測(出所:BIS Research、資料提供:Statista)
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 空気中のウイルス検出はまだ研究段階である。空気中のウイルスについて、例えば企業が自社のWebサイトに実用レベルの精度で常時公開するようなことは現実的とはいえない。従って、JRなどの交通機関が自社車両での換気実験ビデオを公開しているように、店舗ごとに同様のビデオを作成して公開することが、いま提供できる安心材料として現実的なのかもしれない。

自動化ストア、サブスクは定着へ

 次に、BOPISについて。これは文字通り「ネットで買って店で受け取る」だけのことだが、新型コロナウイルスの感染拡大によって利用者が急速に増えている。他の来店客との不用意な接触を避けるというリスク回避の意味と、永遠にも思える長いレジ待ちのストレスから解放されるという利点が、人気の理由だろう。

 図2に示す新型コロナウイルスの感染が広がった2020年5月の米国での調査によると、普段よりも多く利用したという回答者は全体の約3割に達している(同図ではBOPISではなく、BOPUSと表記している)。もともと使っている人も含めると全体の56%にのぼる。また、セルフチェックアウトを普段よりも利用したという回答者も全体の28%だった。宅配ボックスも含めた非接触配達を普段より利用したとする回答者は全体の37%に達した。

図2 コロナ禍によって買い物の方法が変化した
図2 コロナ禍によって買い物の方法が変化した
2020年5月の調査(出所:Salesforce Research; Tableau Software、資料提供:Statista)
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 非接触決済、自動化ストア、サブスクリプションなどは以前から言われていたトレンドだったが、コロナ禍によって必要に駆られて、実利用の機会が増えている。従って、今後はアーリーマジョリティー以降の層にも普及し、当たり前のものとして定着していくことだろう。

 図3に、米国でのクリック・アンド・コレクトの売上予測を示す。クリック・アンド・コレクトは、BOPISよりも広義な概念であり、例えば駐車場など店舗以外で商品を受け取る場合も含む。同図を見ると、米国のクリック・アンド・コレクトの売上高は60%の伸びを見せており、その後も継続的な成長が期待されている。

図3 米国でのクリック・アンド・コレクトの売上予測
図3 米国でのクリック・アンド・コレクトの売上予測
2020年5月の調査(出所:eMarketer、資料提供:Statista)
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 連載の第1回で紹介した「リテール業のデジタル変革とソリューション領域」の図解の中で「BOP anywhere」と書いたが、その傾向を裏付ける調査結果がある(図4)。同図の水色はすでに試したもの、紺色はこれから使ってみたいものである。カウンターでの受け取りだけでなく、店先の路上、自分の車を止めた駐車場のロット、宅配ロッカーといった様々な場所での非接触な受け取りに、消費者が期待を寄せていることは明白だ。また、現在はモバイルアプリを経由した顧客到着の通知連絡が標準的な方法だが、先に紹介したビーコンやRFIDを使えば通知の自動化も可能になるだろう。

図4 BOPISに対する買い物客の関心
図4 BOPISに対する買い物客の関心
2019年1月の調査(出所:Vision Monday; Coresight Research; National Retail Federation、資料提供:Statista)
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 さて、米国の事例や調査だけを見ていると、先進国の特殊な例として片付けてしまいたくなるかもしれない。日本には独自の商習慣があり、なかなか新しいテクノロジーの導入は難しいのだと。どこかで聞いたことのあるコメントである。しかし、世界のBOPISの浸透度を見ると、米国が最先端を突っ走っている革新的なマーケットではないことが分かる(図5)。見ての通りである。

図5 BOPISの浸透度の国別比較
図5 BOPISの浸透度の国別比較
2018年の調査(出所:Retail TouchPoints; OrderDynamics、資料提供:Statista)
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