全1693文字
PR

 「走る半導体」とも言われ、その技術なくしては存在し得なくなった自動車。そこかしこに半導体が組み込まれているのはご存じの通り。鍵を鍵穴に挿すことなく施錠・解錠できる便利なキーレスエントリーに始まり、室内のシート位置の調整、空調システムの制御、タイヤの空気圧の監視、エアバッグの確実な作動はもちろんのこと、昨今ではレーンキープに必要なセンサー制御や充電システムの制御など、ほぼ全ての機能が半導体に依存しているといっても過言ではない。

 そう、微小な半導体チップが現代社会の自動車に欠かせないものとなり、自動車業界が半導体チップへの依存度を高め、ますます飢えているのは当然のことなのである。自動車の電子化が加速する一方で、自動車向け半導体の生産量は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に伴う減産で2020年にへこんだ。自動車業界は半導体不足にあえいでおり、再びの増産とその継続に期待をかける。

 英IHS Markit(IHSマークイット)のデータによると、自動車向け半導体の世界売上高は、2012年の254億ドルから2019年には約410億ドルに増加した。2020年の売上高は約80億ドル減少すると予想されているが、これはコロナ・パンデミックの影響である(*1。しかし、COVID-19がなかったと仮定しても、そもそも自動車用の半導体チップの需要が満たされていたかどうかは疑問である。

図 自動車向け半導体の生産金額の推移。2012年から2019年にかけて62.2%も伸びたが、2020年は“凶作”の年になった。単位は10億ドル(出所:IHS Markit、提供:Statista)
図 自動車向け半導体の生産金額の推移。2012年から2019年にかけて62.2%も伸びたが、2020年は“凶作”の年になった。単位は10億ドル(出所:IHS Markit、提供:Statista)
[画像のクリックで拡大表示]


*1:Automotive Industry Hungry for Microchips, Katharina Buchholz

「産業のコメ」、ポストコロナへ問われる日本の戦略

 茨城県の自動車向け半導体工場で発生した火災事故は、日本随一の半導体メーカーにおけるBCP(事業継続計画)の現状を浮き彫りにした*2。日本政府は被害を修復して一刻も早く工場を再稼働させるために介入しており、自動車メーカー各社もルネサス エレクトロニクスの工場に従業員を派遣している。自動車は日本の最も重要な工業製品のひとつである。その自動車に必要な半導体チップの工場の稼働が停止し、供給が止まるのは最悪の事態を意味する。自動車用半導体は日本の産業の首根っこでもある。まさに「クルマは急に止まれない。半導体は急には造れない」*3のである。

 世界半導体市場統計(World Semiconductor Trade Statistics、WSTS)によると、2021年の半導体産業の総売上高は約4690億ドルになるといわれている。また、自動車だけでなく、スマートフォンや家電から産業機器に至るまで、全方位で半導体チップへの要求が高まっていることが分かる。ポストコロナにおける半導体の活況は確実な状況だ。

 自動車以外の世界に目を向けてみると、半導体最大手の米Intel(インテル)は、2021年2月に就任した新社長が、同年3月のオンライン会見でファウンドリー事業の強化を宣言した*4。同社が「x86」をベースに業界標準のアーキテクチャーで世界を席巻し、少量多品種の逆を突き進み、パソコンの基幹部品として主導権を握ったのはご存じの通りだ。そのインテルが、アーキテクチャーを問わず、他社のチップであっても製造を行うという。アジアへ移り続けていた半導体製造の米国回帰にもつながる。この動きは、いまや独自チップを開発する米Google(グーグル)や米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)などのプラットフォーマーからも賛同を得ている*5

 米国バイデン政権が巨額の投資を打ち出すなど政治色も濃厚になり、半導体業界は日々複雑化の様相を見せる。日本はこの「産業のコメ」の生産・輸出・消費国として世界でどのような役割を見せていけるだろうか。