全3740文字
PR

 日々世間をにぎわせるカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の話題。日本政府は2050年の実現を宣言しており、自動車関連をはじめ、大手企業からの発信も目立つようになってきた。今回は、CO2(二酸化炭素)削減に貢献する日々の取り組みを消費者の観点から考察し、その奥に潜む新しいビジネスの種について考える。

 2021年版のEuropean Mobility Atlasによると、欧州連合(EU)域内のCO2排出量の約30%を輸送機関が占めており、気候変動に関する目標を達成するためには、革新的な取り組みが必要だとしている。特に航空業界に対する指摘は厳しい。同業界は世界のCO2排出量のわずか2%を占めるにすぎないと主張しているにもかかわらず、European Mobility Atlasでは、航空機がより高い上空を飛行するなどの要因によって実際の影響はもっと大きく、総排出量の5~8%を占める可能性があるとしている。

 それでは、航空機を利用した旅行など、私たちの生活に身近なテーマにおける11のCO2削減方法について見てみよう。

図 持続可能性を意識した、さまざまなライフスタイルの変化がもたらすCO<sub>2</sub>排出削減量を示した。数値は2020年時点での見積もり。単位はkg/年
図 持続可能性を意識した、さまざまなライフスタイルの変化がもたらすCO2排出削減量を示した。数値は2020年時点での見積もり。単位はkg/年
(出所:European Mobility Atlas 2021、提供:Statista)
[画像のクリックで拡大表示]

サステナブル生活を支える新ビジネスに注目

 図から分かるように、最も影響が大きいのは先に挙げた航空関連だ。マドリード―リオデジャネイロ間のフライトをやめると、なんと5100kg相当のCO2の削減になるそうだ。この2都市間の直線距離は約8100km、直行便で10時間ほどの距離であり、これは羽田―メルボルン間とほぼ同等である。

 多くの国境が閉ざされているコロナ禍の現在、環境負荷の高い長距離フライトの便数は激減している。そして世界中のほとんどの人が、海外旅行を我慢する状況が続いている。これらはCO2排出の観点では好都合だが、航空業界や観光業にとってはうれしい話ではない。海外旅行の楽しみを奪われ、悲しい思いをしている人も多いだろう。遠い異国を訪れ、異文化に触れることによって、新たな価値観を得たり、日本の良さを再認識したりできるという良さが、海外旅行にはある。それでは、コロナ禍という逆境を逆手にとったビジネスは考えられないだろうか。

 例えば、部分的ではあるにせよ、VR(仮想現実)ツーリズムに新しいチャンスを求めることは可能ではないか。財政的、身体的、その他さまざまな事情によって物理的に飛行機で旅することが困難な人にとっては僥倖(ぎょうこう)であろうし、何よりも思い立ったらすぐに楽しめる点では、旅につきものの時間的な制約からも解放される。後述するがVRへの関心はコロナ禍で再び高まっており、VRを活用した新たな取り組みや事業投資も相次いでいる。今後の市場成長が期待できよう。

 「Oculus Quest 2」に代表されるスタンドアローンのヘッドマウント型が改めて人気を集めている。2021年度には600万台の販売が見込まれ、2024年には1400万台まで成長するとの予測がある。医療や教育、製造業などの業務用途が主力のVRだが、例えばVRゲームの分野も2020年の11億ドルから2024年の24億ドルへと大きな成長が期待されている。もちろんこれらだけで欠航による遊休資産に頭を抱える航空業界が失ったビジネスを補えるものではないが、産業シフトによる新ビジネスのチャンスと考えることはできるだろう。VRは、マドリードからリオのカーニバルへ飛べなくなった人(もしくは羽田からメルボルンのコアラに会いに行けなくなった人)だけのものではないのだ。

 航空機の次にインパクトが大きいのは自動車である。European Mobility Atlasによると、一生に1台も自動車を所有せずに「自動車レス」の生活を全うすれば2000kgのCO2削減になるという。しかし、単に自動車をなくすだけでは、人々の「移動の自由」が大きく損なわれてしまう。今はコロナ禍で我慢を求められているが、コロナ禍後は自由に動き回りたいと考える人が増えるだろう。場所に左右されず、好きな町に住みながら、好きな会社で働いたり、遊びに出かけたりするためには、自由に移動できることが前提になる。移動の自由を確保しながら、自動車所有によるCO2排出の増大を抑える方法はないだろうか。

 カーシェアリングは解決策の1つになり得ると、筆者は考える。自動車の所有に関する考え方は新型コロナウイルス感染症の状況によって変化することも考えられるが、所有しないことを是とする人は若年層を中心に着実に増えている。また、インドを中心とした新興国でのカーシェアリング利用は着実に進んでいる。ライドシェアに目を向けてみても、世界の動きはここに来てさらに活発な様相を見せている。ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)によるレベル4の自動運転商用車は2021年夏から試験運用されるという。米General Motors(ゼネラル・モーターズ、GM)でも、ホンダとの共同開発によるライドシェア向けの自動運転車両の量産が始まっている。