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 構造デザイナーであるローラン・ネイ氏の下、欧州各国でデザインコンペに参加した経験を持つネイ&パートナーズジャパンの渡邉竜一代表。国内でもプロポーザルを経て複数のプロジェクトを手掛けてきた。

 インタビューの後編では、デザインの本質とデザインコンペを通じて日本の公共事業をより良い方向へ導くための方策について聞いた。
(前編はこちら


必要なのは「合意形成」でなく「共感」

渡邉さんが手掛けた長崎市の出島表門橋のプロジェクトは、製作中の工場見学会や架橋イベントの開催など、完成前から市民を巻き込んで大きな盛り上がりを見せました。

ネイ&パートナーズジャパンの渡邉竜一代表(写真:三上 美絵)
ネイ&パートナーズジャパンの渡邉竜一代表(写真:三上 美絵)
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 市民の中には僕らの案に反対する人もいましたし、最初の時点ではあのようなかたちで成功するとは誰も想像していませんでした。

 出島表門橋は、江戸時代に出島と対岸の江戸町とをつないでいた橋を130年ぶりに架けたもの。元は長さ4.5mの石の橋でした。市民の多くは、江戸時代と同じ橋を復元してほしいと望んでいたのです。

 しかし、河川改修によって現在は出島と江戸町の間隔は30mに広がっており、昔と同じ長さの橋は架けられない。また、出島が国指定史跡であるがゆえの制約がありました。1つは、元の橋を忠実に再現できないなら、復元だと誤解されないような現代的な橋にしなければならないこと。もう1つは、出島側の土地を掘削して大がかりな橋台を造ることができないことです。

 そこで、僕たちは江戸町側だけに橋台を設け、片持ちの桁を支える構造を提案しました。地元の製鉄や造船の技術を生かしたいと、材質はスチールにした。けれども、当初の説明会では、地元の一部の人から「こんな橋ならいらない」という声が上がったのです。

最初から順風満帆なわけではなかったと。転機はどのようにして訪れたのですか。

 少しずつ地道に流れを変えていったのです。僕ら設計者と発注者である長崎市がまず同じ方向を向き、次に河川管理者である長崎県が僕らのやろうとしていることを理解してくれて、プロジェクトが前に進み出しました。

 僕は橋を地元の工場で製作した後、現地まで船で運び、一括で架橋することにこだわりました。江戸時代の出島には、見たこともない物が海から入ってきた。ヨーロッパの現代技術を注ぎ込んだこの橋で、そのシーンを再現したかったからです。

 もちろん、コスト的には分割して搬入した方が安いし、規制も少なくて済みます。ただし、特殊な構造の橋なので、品質管理の観点から一括で運ぶメリットもありました。

 最初は分割して運びたいと言っていた施工者も、僕らの考えを伝えて話し合ううちに共感してくれ、同じ方向を向いてくれました。橋を運ぶためだけで、港湾局や海上保安庁、国道事務所、警察など各方面の許可を取るのに1年ほどかかっています。

 そうした過程で、現場の仮囲いに市民の写真とメッセージを掲載する「出島仮囲いプロジェクト」を実施し、そこから両手の指で橋の形を作る「出島ポーズ」が生まれた。これをテレビ局が取材に来たのをきっかけに、一緒にイベントも開催しました。

仮囲いプロジェクトの写真に登場した人たちには「出島ポーズ」を取ってもらった(写真:DEJIMA BASE)
仮囲いプロジェクトの写真に登場した人たちには「出島ポーズ」を取ってもらった(写真:DEJIMA BASE)
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 そのうち、工事がニュースに取り上げられる頻度が増え、テレビを見た人たちの間に「自分たちの街で何かすごいことをやろうとしている」という空気が出てくる。市民も同じ方向を向き始めたのです。

当初、反対していた市民とは、どのように接したのですか。

 住民説明会を開いてもらい、「反対の人の話を聞きたい」と言ったら、僕のところへ何人かの人が駆け寄ってきました。その後も、僕は彼らのところへしつこく通って話をした。そのうちに、「設計案の良さは分からないけれど、渡邉さんの思いは分かったから応援しよう」という雰囲気に変わっていきました。

 反対する人はそれだけ思いの強い人ですから、じっくり話し合って共感してもらえれば応援者に変わるのです。必要なのは「合意形成」ではなく「共感」です。

 全てがこうした1つひとつの積み重ねで、プロジェクトのどのフェーズにも「デザイン」がある。橋が完成した今も、地元の有志が集まって橋を掃除する「橋拭き」のイベントが続いています。

架設中の出島表門橋。施工は大島造船所・久保工業JV。架橋の瞬間を見届けようと、2000人の市民が集まった(写真:大村 拓也)
架設中の出島表門橋。施工は大島造船所・久保工業JV。架橋の瞬間を見届けようと、2000人の市民が集まった(写真:大村 拓也)
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