2020年が幕を開けた。デジタル技術の進化によって人々の生活や社会はどう変わるのか。企業はどんな対応をすべきか。商機はどこにあるのか。20の技術や市場・関心事を対象に、2020年の行方を大胆予測した。今回はソフトバンク・ビジョン・ファンドを取り上げる。
2017年の設立からの累計投資利益は1兆2000億円――。2019年11月6日、ソフトバンクグループの2019年4~9月期連結決算の発表会で、孫正義会長兼社長は同社が立ち上げた投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」の成果をこう強調した。
「10兆円ファンド」としてIT業界や株式市場の話題をさらったSVF。出資総額は970億ドル(2019年3月末時点、当時のレートで11兆円)、累計投資額は8兆2000億円(2019年9月末時点)、投資した企業数は88社(同)に上る。投資先のうち37社が株式の評価益などで合計1兆8000億円の利益を生んだ(同)。22社の評価が下がり6000億円の損失が生じたものの、差し引き1兆2000億円のプラスというわけだ。
1社当たりの投資額は最低でも1億ドル(109億円)で、数十億ドルに達する投資も少なくない。2018年8月までに衛星通信の米ワンウェブに10億ドル(1090億円)を、ライドシェアの米ウーバーテクノロジーズには70億ドル(7630億円)あまりを投じている。
AIのユニコーンハンター
SVFの投資対象企業の事業分野は多岐にわたる。ライドシェアではウーバーや中国の滴滴出行、金融分野ではスマートフォン決済を手掛けるインドのペイtmや中小企業向け融資の米カベージ、医療分野ではがん早期発見の米ガーダントヘルス、格安ホテルを運営するインドのオヨ・ホテルズ・アンド・ホームズなどがある。
孫氏は投資する企業の条件を2つ挙げる。1つはAI(人工知能)を活用している点。「インターネットが改革したのは広告業界と消費者向け小売業界の2つ。今起こっているAI革命は残る全ての産業を再定義すると信じている」(孫氏)。
もう1つは「それぞれの分野や事業を営む国で圧倒的ナンバーワン」(同)の地位を獲得している点だ。アーリーステージと呼ばれる創業直後の企業ではなく、上場を見据えたレイトステージにいる企業を対象にする。その中でも評価額が10億ドル(1090億円)を超える未上場企業、いわゆるユニコーン企業を狙う。孫氏は自称「ユニコーンハンター」である。
「ツーも、スリーも行きますよ」
2020年も孫氏は投資の手綱を緩める気配はない。2020年中の組成を目指して、SVFの第2号を準備中だ。2019年7月の発表時点の出資予定額は1080億ドル(当時のレートで12兆円)。ソフトバンクGが380億ドル(4兆1420億円)を出資するほか、米アップルや米マイクロソフトといったIT大手、みずほ銀行や三井住友銀行、三菱UFJ銀行などの金融機関も出資する。他の投資家とも出資に向けて協議しており、2号ファンドの規模は拡大する見通しだ。サウジアラビアなどの大口投資家が関心を示しているという。
孫氏はさらにその先、3号ファンドも意欲を見せる。「ツーもいきますよ。スリーまでいきますよ」。2019年11月の決算発表の席でこう明言している。
1号ファンドの11兆円に2号の12兆円を足せば23兆円だ。3号ファンドでこれらと同規模以上の出資を集められれば、3つのファンドを合わせて40兆円に迫る規模となる。