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 「サーキュラーエコノミー(CE)の市場ポテンシャル、経済効果は2030年までに合計4.5兆米ドル(約500兆円)が見込まれている」。こう語るのはアクセンチュア戦略コンサルティング本部サステナビリティグループ統括マネジング・ディレクターの海老原城一氏。同社の定義するCEにはシェアリングプラットフォームや製品のサービス提供なども含まれるが、それでも膨大な金額である。

 CEへの流れが世界的に加速する中、これに対応した取り組みがものづくり企業には求められている(図1)。循環させやすい素材の開発・採用だけでなく、長寿命化や回収、分離のしやすさを考慮した製品の設計や製造にも取り組む必要がある。

図1 ものづくりの“循環革命”の背景と取り組みのポイント
図1 ものづくりの“循環革命”の背景と取り組みのポイント
海洋プラスチックごみや異常気象といった環境問題が顕在化する一方、IoTやAIといった技術革新も進み、社会における規制の強化だけでなく消費者の価値観の変化が生じている。こうした状況に対応する手段として、製品や素材を循環させるサーキュラーエコノミー(循環型経済)の重要性が高まっており、ものづくり企業にも素材や製品の設計、製造などに関する要素技術の開発や仕組み作りが求められている。
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プラスチックの循環は待ったなし

 材料や部品、製品を循環させていくCEは日本語で「循環型経済」とも呼ばれる。これまで、大量生産・大量消費を基本とした世界では、さまざまな製品が造られては捨てられてきた。ものづくり企業に求められてきたのは、いかに効率よく低価格で製品を提供するかだった。

 しかし、ここにきてその潮目が大きく変わった。海洋プラスチックごみ問題をきっかけに、使い捨てプラスチック製品の利用や製造、プラスチック廃棄物(廃プラ)の流通に制限が出てきたのだ。

 例えば、2017年には中国が廃プラの輸入を禁止し、2018年以降には東南アジア各国で輸入制限が広がった。オーストラリアのように、自国内でリサイクル業界を育てるために廃プラを輸出禁止にしようとしている国もある。2019年5月には、有害物質の国境をまたいだ移動を制限するバーゼル条約の対象に、汚れた廃プラが含まれるようになった。

 同じく2019年5月、EU理事会は「特定プラスチック製品の環境負荷低減に関わる指令」を採択した。この指令では、使い捨てプラスチック製品の利用などを禁止している*1。EU各国は、この指令に沿って2年後をめどに国内法制度を整備する必要がある。

*1 発泡ポリスチレン製食品容器や、カトラリー(ナイフ、フォーク、スプーンなど)、ストロー、プレート、綿棒、風船の棒などへのプラスチック利用を制限した。

 こうした世界各国での動きに対応し、日本もレジ袋の有料化などを打ち出し、使い捨てプラスチック製品の削減に取り組む。2019年5月には「プラスチック資源循環戦略」を公表。その中でマイルストーンとしてプラスチック製品のリユース/リサイクルの目標などを明記した(図2)。今後、研究開発の補助などはこの戦略に基づいて実施される見込みだ。

図2 日本における「プラスチック資源循環戦略」のマイルストーン
図2 日本における「プラスチック資源循環戦略」のマイルストーン
2019年5月31日に日本政府が公表した。(日経ものづくりが作成)
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 ここで誤解してはいけないのが、プラスチック製品を全て否定する「脱プラスチック」ではなく、「有効利用」である点だ。石油に頼らず、みだりに使い捨てず再利用する。廃棄する場合でも、自然環境に悪影響を及ぼさないようにする。一度造った製品を長い期間、繰り返し使うこともこの目的に合致する。

 地球環境面での状況変化は、消費者や企業の価値観を本質的に変えようとしている。ファストフード店やコーヒーショップ、小売店などで自主的にストローやレジ袋などの使い捨てプラスチック製品の使用を中止する動きからも価値観の変化が分かる。

 加えて、1つの製品を長く使い続ける、他者と共有したり再利用したりするライフスタイルへの共感が高まっている。近年のシェアードエコノミーの普及の状況からも分かるように、所有から利用にこそ価値を見出すように変わり始めた。

 IoT(Internet of Things)や人工知能(AI)、アディティブ製造(AM、3Dプリンター)といったデジタル技術の進化も、価値観の変化、ひいてはCEの拡大に一役買っている。モノの状態を個別かつリアルタイムで把握できるようになるIoTは、モノを使い続けるメリットを高め、モノを循環させる仕組みづくりで生きるからだ。

回収プラの品質を上げつつ対応力を高める

 新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)によると、CEを構成する4つの循環のうち資源循環と素材再生、つまり回収プラスチックを再生させて循環させるという視点で研究開発の方向性を見てみると、大きく2つのポイントがある(図3)。1つは回収した廃プラの品質向上、もう1つが廃プラを素材として再生させる、もしくはエネルギーとして回収する技術の向上だ*2

図3 回収プラスチックに対する研究開発の方向性
図3 回収プラスチックに対する研究開発の方向性
回収するプラスチックの品質を高性能な選別・分離技術によって高めていく。一方で、ケミカルリサイクルやマテリアルリサイクルで対応可能な品質の下限を拡大し、焼却・埋め立てで処理する量を減らしていく。(NEDOの資料を基に日経ものづくりが作成)
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*2 NEDOの技術戦略研究センター(TSC)は2019年11月、TCSレポート「TSC Foresight」として「資源循環(プラスチック、アルミニウム)分野の技術戦略策定に向けて」を発行。その記者説明会の資料で示した。

 回収プラスチックは現状、回収した際の品質(汚染度や混合度)によって処理方法が異なっている。単一プラのような高品質の材料は粉砕・分離した上で、ペレットとして成形に使うようなマテリアルリサイクルが可能だ。汚れがある一定基準を超えると、マテリアルリサイクルでは成形品の品質を確保できないため、モノマーまで分解して再重合させるといったケミカルリサイクルを適用する。こうした素材へのリサイクルもできないほど品質が悪い場合には、エネルギーとして回収。それも不可能となれば焼却、埋め立てによって処理する。

 エネルギーの消費や地球環境への負荷を考えると、基本的にマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルで処理したい。そこで、回収プラの品質向上を図る。製品を構成する材質の統一や接着レスなどの取り組みが考えられる。

 一方で、リサイクル技術の対応力向上も不可欠だ。品質が悪い、つまり汚染度や混合度が高い廃プラでもマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルができるようになれば、前述の目的を達成できる。そこでは、リサイクル技術そのものだけでなく、リサイクル工程に投入する前の分離技術なども必要で、プラスチックの種類や複合材かどうかなどでも異なる技術が求められるだろう。

地球を循環に組み込むバイオプラ

 CEを構成する4つの循環の一番外側、つまり素材を二酸化炭素や水にまで戻し、しかも生物由来の素材を使う技術としては、生分解性プラスチックを含むバイオプラスチックが注目を集める。廃棄物を焼却や埋め立てによらずに処理でき、石油由来の資源の使用量の削減にもつながる。

 生分解性プラスチックは、土壌中のバクテリアなどで二酸化炭素と水に分解される(図4)。PLA(ポリ乳酸)では欧米とタイの連合が世界をリードしているが、日本でも三菱ケミカルやカネカなどが生分解性プラスチックの研究開発を長年継続してきており、性能向上を競う。

図4 生分解性プラスチックが土壌中で分解されていく様子
図4 生分解性プラスチックが土壌中で分解されていく様子
三菱ケミカルの「BioPBS」(ポリブチレンサクシネート:PBS)は土壌中の微生物によって二酸化炭素と水に分解される生分解性プラスチック。耐熱性が高く、繊維などとの相溶性も良いという特徴を持つ。(写真:日経ものづくり)
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 生分解性のある材料としては、木質素材を原料とするセルロースナノファイバー(CNF)も注目の的だ。CNFは既存の石油由来プラスチックの強化材として使う用途が有望で、回収して粉砕し、再成形しても、ガラス繊維強化樹脂などと比較して物性の低下が小さいなど、素材再生の面でも優れている。

 CNFの研究は日本が先行しており、繊維の微細化とプラスチックへの混錬を低コストで実現する「京都プロセス」などが注目を集める。既に同プロセスで製造したCNFは実製品にも採用されており、アシックスは2018年6月に、ミッドソールにCNFを使用したランニングシューズ「GEL-KAYANO 25」をグローバルで発売した(図5)。CNF強化プラスチックを使用した製品として世界で初めての商用化例とされる。

図5 ミッドソールにCNFを使ったランニングシューズ
図5 ミッドソールにCNFを使ったランニングシューズ
アシックスが2018年6月に発売した「GEL-KAYANO 25」は、靴底のミッドソール(中間クッション材、写真の青色の部分)にセルロースナノファイバー(CNF)を使っている。クッション材の気泡を補強する素材としてCNFを採用し、軽量性を維持したまま強度を約20%、耐久性を約7%向上させた。
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 実は、同社がCNFを採用した理由は植物由来であるためだけではない。CNFを使えば、軽量性を維持しつつ発泡体の強度(耐久性)向上を果たせる。CNFによって気泡の壁を補強し、さらに気泡を微細化して発泡体を高強度化する。ミッドソールの耐久性向上は、製品の長寿命化にもつながる。

 「長年、機能とサステナビリティの両方を改善する材料や技術の研究開発を続けてきた」(同社)という。単に地球環境に良いという理由だけでは、新技術の採用は広がらない。機能や性能といった付加価値を高めつつ、CEを意識した取り組みが大切だ。