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 「日本国内2社の先行技術があればこそ、日本としての戦略立案が可能だった」〔新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)技術戦略研究センターの瓦田研介氏〕。土壌で生分解するプラスチック、「PHBH」(カネカ)と「BioPBS」(三菱ケミカル)のことだ。経済産業省が2019年5月に公表した技術戦略「海洋生分解性プラスチック開発・普及ロードマップ」の策定では、2社の実績が大きな支えになったという。

 海洋プラスチックごみ問題への社会的な問題意識が強まるとともに、生分解性プラスチックに注目が集まっている。「昨年(2018年)から急に問い合わせが増えた」(三菱ケミカルサスティナブルポリマーズ事業部企画管理グループグループマネジャーの柏谷一郎氏)という状況だ。

微生物が分解、環境に残らない

 生分解性プラスチックは微生物によって水と二酸化炭素に分解される。プラスチックが海に流れ込んだ後、細かく破砕されても化学物質として残り続けるのが海洋プラスチックごみ問題だから、生分解性プラスチックは直接的な解決策の1つである。

 生物の力を借りて環境に対する負荷を減らせるという意味で、生分解性プラスチックは「バイオ」プラスチックの一種とされる(図1)。多くの生分解性プラスチックは植物などに由来する「バイオマス」プラスチックでもあるが、石油由来であっても生分解性プラスチックなら海洋ごみ問題に有効だ。

図1 生分解性プラスチックとバイオマスプラスチック
図1 生分解性プラスチックとバイオマスプラスチック
それぞれ地球環境の改善に効果があると考えられ、バイオプラスチックは両者の総称であるというのが社会的な共通認識になっている。(新エネルギー・産業技術総合開発機構の図を日経ものづくりが一部編集)
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 バイオマスプラスチックは、空気中の二酸化炭素を増やさないカーボンニュートラル性に意味がある*1。日本国内での普及はバイオマスプラスチックが先行し、生分解性プラスチックは遅れている*2

*1 バイオマスプラスチックも燃やせば二酸化炭素が生じるが、その二酸化炭素は植物が空気中から取り込んだものであるから、元に戻っただけと考える(カーボンニュートラル)。対して石油由来のプラスチックを燃やすと、地中に眠っていた炭素を二酸化炭素として空気中に放出するから、数年間程度の時間スケールでは二酸化炭素が純増になると考える。
*2 2018年の世界のバイオプラスチック生産能力は2018年に211万2000tで、うち生分解性プラスチックは91万2000t(ユーロピアン・バイオプラスチックによる)。日本のバイオプラスチック出荷量は2017年に年間3万9500tで、うち生分解性プラスチックは2300t(日本バイオプラスチック協会による)。

 生分解性プラスチックのうち、前述の2社のものは分解性が高く、土壌で分解する(図2)。カネカのPHBHは、微生物が体内に蓄積するポリマーを精製して得られる*3。物質としては(R)-3-ヒドロキシ酪酸と(R)-3-ヒドロキシヘキサン酸をモノマーとする共重合ポリエステルである。プラスチック・ゴムの国際展示会「K2019」(2019年10月16~23日、ドイツ・メッセデュッセルドルフ)では土中に9週間放置したPHBH製フォークを展示。木材並みに分解する様子を示した。PHBHは、土壌よりも条件が厳しい海洋生分解性もあるとして、認証機関テュフオーストリアによる認証も得ている。

図2 日本の代表的な生分解性プラスチック
図2 日本の代表的な生分解性プラスチック
カネカが1990年代から開発した「PHBH」(a)と、三菱ケミカルの「BioPBS」(b)。土中で生分解する状況を、カネカは2019年10月の「K2019」、三菱ケミカルは2019年12月の「エコプロ2019」で展示した。PHBHは微生物が産出するポリマー。BioPBSは2種類のモノマーを合成して得られる。(写真:日経ものづくり)
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*3 PHBH製ストローをセブンイレブンが「セブンカフェ」で2019年11月から採用した。

 三菱ケミカルのBioPBS(PBSはポリブチレンサクシネート)は2種類のモノマーを共重合して得られ、一方のコハク酸が植物由来なので半分バイオマスプラスチック*4。ただし「2019年末時点では石油から造っている1,4-ブタンジオールを植物由来で製造する方法が既に存在するので、100%バイオマス由来にできる」(三菱ケミカルの柏谷氏)。「エコプロ2019」(2019年12月5~7日、東京ビッグサイト)では45日間土中に入れたBioPBS製フィルムの様子を展示した。

*4 BioPBS製ストローを、京浜急行電鉄のグループ企業が同4月から、ワシントンホテルが同5月から採用。2019年8月からコム デ ギャルソンの直営店がBioPBS製ショッピングバッグを採用した。