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 年末最終営業日の夕方。そろそろお正月気分も漂っていたみずほ銀行の現場は、大慌てになった。エラーになった約2700件の振り込みを、手作業で再送信する必要があったためだ。営業店や事務センターで多くの職員が残業し、エラーになった振り込みの内容をキーボードを使って1件1件入力して再送信した。しかし約2700件のうち約300件については、12月30日中に送信作業を完了できず、翌31日に作業を持ち越した。また約300件の振り込みの中には、モアタイムに参加していない金融機関に宛てたものがあり、これらは翌営業日である2022年1月4日に送金が完了した。

 2018年10月にモアタイムが稼働して以降、参加金融機関の中でみずほ銀行を除いて、コアタイムからモアタイムへの切り替え時間の設定を誤った例はないとみられる。みずほFGでグループCIO(最高情報責任者)を務める米井公治執行役は「作業プロセス上の見逃しがあった」と説明する。「作業プロセスをしっかりと見直し、二度と顧客に迷惑をかけることがないようにしていく」(米井執行役)。

 次の障害は2022年の年明け、成人の日の連休が終わった1月11日に発生した。みずほe-ビジネスサイトが午前8時のサービス開始から午前11時33分までの約3時間半、ログインしづらい状態になった。引き金を引いたのは、連休中に実施した「不定期の作業」(藤原頭取)にあった。不定期の作業とは「為替の振り替えをテストするような作業」(同)だったという。これがみずほe-ビジネスサイトのDBにおける「統計情報」の更新処理とぶつかり、統計情報に不具合が生じた。

統計情報更新と不定期作業が競合

 統計情報の更新とは、DBのテーブルに対してデータ分布を調査する処理だ。データベース管理システム(DBMS)の「オプティマイザー」はこの統計情報を基に、クエリーを高速に処理する最適な実行計画を策定する。

 今回のみずほe-ビジネスサイトのケースでは、統計情報の更新と週末の不定期作業が競合し、統計情報の内容と実際のデータ分布に大きなかい離が生まれたとみられる。その結果、オプティマイザーが不備のある統計情報に基づいて非効率な実行計画を策定してしまい、DBの処理時間が遅延。それに引きずられる形で、みずほe-ビジネスサイトのアプリケーションサーバーにおいて処理待ちが発生し、顧客が同サービスにログインしづらくなった。

 DBに詳しいアクアシステムズの川上明久執行役員技術部長は「安定稼働を優先するシステムでは、オプティマイザーが積極的に走らないように設定するのが一般的だ」と指摘する。DB管理者にとって、統計情報の更新タイミングの管理は基本動作といえるもので、みずほ銀行は必要なリスク管理を怠っていた可能性がある。

 みずほ銀行はおよそ1年前の2020年11月30日にも、顧客がみずほe-ビジネスサイトにログインしづらくなる不具合を起こしていた。米井執行役は「2020年11月の障害では作業がぶつかったのではなく、過去の設定情報を基に最適化する作業そのものがうまくいかなかった」と説明した。米井執行役は「原因はまったく別」だとしたが、DBMSによる最適化に起因した点で、共通する部分がある。

 みずほFGとみずほ銀行は2022年1月17日、金融庁へ業務改善命令に基づく業務改善計画を提出した。同計画は「多層的な障害対応力の向上」「経営管理面の対応高度化」「企業風土の改革」という大きく3つの方針を掲げた。2022年2月に坂井辰史氏の後任としてみずほFG社長に就いた木原正裕氏は「一連のシステム障害を受け、今はみずほにとって正念場という認識だ」と語り、システムの安定運用に最優先で取り組む方針を示した。

 MINORIに関わる人員は増員し、システムに詳しい経営幹部人材の外部登用も進める。みずほFGのグループ執行役員特命事項担当として、日本IBMで副社長や副会長などを歴任した下野雅承氏を招へい。下野氏はみずほ銀行の非常勤取締役も兼務し、「IT戦略やガバナンスに関し、経営陣への提言などの役割を担ってもらう」(みずほFGの社外取締役で指名委員長を務める甲斐中辰夫氏)。

 みずほは経営体制も刷新し、システムの立て直しを急ぐが、抜本的な改革につながるかは不透明だ。みずほが一連のシステム障害に関連し、異例といえる2度目の業務改善命令を受けた後に引き起こした振り込みとみずほe-ビジネスサイトに関する2件の障害は、みずほの病巣の深さを改めて浮き彫りにした。