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2020年12月、国土交通省が運用する航空管制システムに障害が発生した。航行中の航空機に関する一部の情報を管制官が確認できなくなった。管轄エリアに入る予定の航空機が出発を見合わせたことで46便に遅れが生じた。障害の原因はサーバー冗長化機能の誤作動だった。異常系のテスト不足で死活監視の不具合を見逃していたことも明らかになった。

 航空管制上のトラブルのため、出発を見合わせております――。2020年12月14日の午前7時半ごろ、羽田空港や成田空港などのあちこちの搭乗口でこのようなアナウンスが流れ始めた。日本の上空を飛行している旅客機を誘導する航空管制システムの障害だ。

 障害が起こったのは、埼玉県所沢市にある国土交通省東京航空交通管制部のシステムだ。同日午前7時17分から43分までの26分間、管制官が見る画面上で航行している航空機の目的地の空港や予定航路などの情報が一時的に表示されなくなった。この影響で羽田や成田など10空港を出発する46便に最大36分の遅れが生じた。航空機の位置情報などは表示されていたので管制機能が完全にまひしたわけではないが、この状態が続けば重大な事態を招いていた恐れがあった。

 航空管制システムは2018年10月にも大規模な障害を起こし、多くの航空機の遅延を招いた。今回の障害は当時ほどの規模ではないとしても、空の安全を揺るがすトラブルであることに変わりない。同システムを管轄する国交省の江藤克也航空局交通管制部交通管制企画課管制情報処理システム室課長補佐は「事態を重く受け止め、再発防止に努める」と反省の弁を語る。

処理系サーバーが突然ダウン

 障害が発生したのは、複数あるサブシステムのうち、空港間を結ぶ経路である航空路の管制を担う「航空路管制処理システム(TEPS)」を構成するサーバーだ。TEPSでは全国の航空路監視レーダーなどから届く航空機の「位置情報」と、飛行情報管理処理システム(FACE)が管理する航空便ごとの「飛行計画情報」を照合。これらの情報を基に管制空域を航行する航空機の便名や高度、機種名、予測位置などのデータを画面に表示する。管制官はこれらのデータを見ながら、航空機の機種や飛ぶ方角、他機との飛行間隔、気象条件などを加味して、各便にどの高度で飛ぶかなどを指示する。

 TEPSを構成するサーバーは、役割によって大きく2種類に分かれる。航空機の位置や飛行計画などの情報を処理する「処理系」と、処理したデータを画面に表示する「表示系」だ。障害が起こったのは、処理系で飛行計画情報を主に扱うサーバーだった。

 TEPSのシステム管理者が異常を検知したのは12月14日午前7時17分。システムの状態を監視する装置が警報を発した。それまで正常に動作していた処理系サーバーの1つが、突然ダウンしたことを報じるものだった。

 その後、航行中の航空機の一部表示が更新されずに画面から消えてしまう事態が発生した。連絡を受けた江藤課長補佐らは、航空交通の安全を確保するため、同サーバーが管轄する北海道から一部の中国地方までのエリアに入る予定の航空機の出発を見合わせる措置を講じた。