2023年3月、横浜市のコンビニの証明書交付サービスでトラブルが発生した。住民が住民票の写しの交付を申請したところ、別人のものが発行されたのだ。原因は富士通Japanが手掛けるサービスの不具合だった。利用者が増えて負荷が高まり、潜在的なバグが表面化した。国がマイナンバーカード普及に力を注ぐ中、冷や水を浴びせる結果となった。
「個人情報漏洩にも当たる事案で大変重要な問題であり、遺憾に思っている」――。河野太郎デジタル相は2023年3月31日の閣議後記者会見において、厳しい口調でこう述べた。河野氏が言及したのは、横浜市で発生したコンビニの証明書交付サービスにおける住民票の誤発行トラブルについてだ。
横浜市のトラブルは2023年3月27日昼に発生した。住民がマイナンバーカードを使って住民票の写しの交付を受けようとしたところ、他人の住民票が誤発行される事象が相次いだのだ。原因は富士通Japanが手掛けるコンビニ証明書交付サービス「Fujitsu MICJET コンビニ交付」のバグだった。横浜市は誤発行した証明書を全て回収。個人情報が漏洩した住民に経緯を説明して回ったり、マイナンバーまで漏洩した住民に対しては個人番号を変更したりと対応に追われた。
同トラブルは発生当初からSNS(交流サイト)上で大きな話題を集めた。他人の住民票が出力されるという重大性に加え、トラブルの原因について富士通Japanが「システムの負荷が高まったことで、プログラム的な瑕疵(かし)が表面化した」(広報)とだけ説明したためだ。「どんな設計をしたらそんな事象が発生するんだ」「レースコンディション(競合状態)か?」などと、様々な臆測を呼んだ。前代未聞のトラブルは一体、どうして起こったのか。
住民からの連絡で発覚
「コンビニで住民票を発行したら他の人のが出てきたのですが……」
トラブルが発覚したのは2023年3月27日昼ごろ、磯子区役所(横浜市)に入った誤発行に関する住民からの1本の電話だった。青葉区役所(同)や横浜市のマイナンバー専用コールセンターなどにも同様の連絡が相次いだ。
横浜市は区やコールセンターからの報告を受け、システムに何かしらのトラブルが発生していると判断。富士通Japanの担当者にすぐさま連絡し、同日午後2時にコンビニでの証明書交付サービスを停止した。年度末に突然止めたため、横浜市には多くの苦情が寄せられたという。「引っ越しが非常に多い時期にコンビニでの交付を停止したため、市民にはご迷惑をおかけしてしまった」(横浜市の職員)。
横浜市は富士通Japanによるプログラム改修の報告を受け、3月29日午前6時30分にサービスを再開した。最終的に同市で誤発行したのは住民票の写し6通12人分、住民票記載事項証明書2通4人分、印鑑登録証明書2通2人分の3種類である。誤発行が発生したのは3月27日午前11時35分ごろから約10分間。原因は印刷処理管理機能のバグだった。
ロックを解除するバグが内在
横浜市は富士通のデータセンター内にある同市専用プライベートクラウド上で稼働する証明書交付サービスをSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)型で利用していた。同システムは、①印刷の順番を管理する「印刷処理管理」、②印刷イメージ(PDF)ファイルを作成する「ファイル作成」、③申請者にPDFファイルを返送する「ファイル送付」、の主に3つの機能から成る。
利用者の申請は逐次処理しており、例えばAさんが印刷処理(ファイル作成、送付)しているタイミングでは、Bさんが申請しても印刷処理管理機能によって「処理待ち」としてロック状態となる。Aさんの処理が完了するとBさんのロックが解除され、ここからBさんのファイル作成処理に移る。