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政府が開発した自治体向け「ワクチン接種記録システム(VRS)」。タブレットの内蔵カメラで接種情報を読み取りにくい不具合が頻発した。接種歴を迅速に入力する主要機能だが、検証が不十分だったとみられる。自治体関係者はアジャイル開発での品質確保が不徹底と指摘する。一方でデジタル庁への前哨戦として異例の取り組みを評価する声もある。

 65歳以上の高齢者を対象とした新型コロナウイルスワクチン接種が一部の自治体で2021年4月12日から始まった。ところが自治体の接種会場や医療機関で使用する「ワクチン接種記録システム(VRS)」において、タブレット端末を使って接種者の情報を入力する際に不具合が頻発している。

 VRSではワクチン接種を受けた住民の接種歴の入力を効率化するため、接種対象の住民に郵送した接種券にあるバーコードや、接種歴を記録した18ケタの番号である「OCRライン」を、タブレット端末の内蔵カメラを使って読み取る。ところが複数の自治体のIT担当者によると、タブレット端末の内蔵カメラで接種券の情報を読み取る際に時間がかかったり、誤認識したりする場合があるのだという。カメラで情報を読み取れない場合、タブレット端末で情報を手入力する必要がある。

 ある自治体のIT担当者は「読み取り精度が悪く、医療機関に使ってもらえるレベルではない」と指摘する。タブレット端末の内蔵カメラで接種券の情報を読み取る機能は、VRSの主要機能の1つとされていた。いわば入り口の段階でつまずいた格好だ。

 VRSを開発した内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室(以下IT室)は2021年3月末までに自治体から寄せられた希望台数に応じて、NTTドコモなどからシャープ製と中国レノボ製のAndroidタブレット4万1000台を調達して配布した。6月末までに追加で1万台を確保する予定を明らかにしている。

 IT室は日経コンピュータの取材に「タブレット内蔵カメラのオートフォーカスが合わないケースがある」と話し、読み取り方法の説明を追加したり動画を作成したりしている。自治体関係者はIT室の取り組みを評価しつつも、機能の改善を求めている。

 長年自治体向けシステム開発に携わった別の自治体担当者は「バーコードの読み取りがうまくいかないと、入力者の負担が増えるだけでなく入力誤りの可能性も高まる」と指摘する。

 この自治体担当者によるとバーコードの読み取り精度は印刷に使ったプリンターやスキャナー、読み取る際の環境光の影響を受けやすいという。これまで業務でバーコードを使う場合は、実際に本番で使うプリンターで出力したバーコードやスキャナーを現場に用意してスムーズに読み取れるかテストしてきた。それに対して「VRSは実際の環境でテストをする時間的な余裕がなかったのではないか」と分析する。

 別の自治体IT担当者は「開発者の問題ではなく、リリース可否を判定する発注者の問題」と指摘する。一部の自治体は接種開始に間に合わせるために、別途外付けバーコードリーダーを独自に購入して、タブレット端末を使う医療機関への配布を始めた。